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番外編:トゥルーエンド分岐②(枯れた涙と、冷たい心)
……どの位の時間が経ったのであろうか、月もすっかり沈み、太陽が昇り始めていた。エルフィンは悠人を抱き寄せ、横になっていた。
「ねぇ、エル。いっそ悪魔にならない?」
「っ! 悠人、お前……正気か?」
エルフィンは悠人の発言に驚いた。そして、悠人は起き上がって、エルフィンを見つめる。
「エル……気付いていないけど、片目が完全に悪魔の瞳になってるよ、ほら」
悠人はエルフィンの手を引き、一緒にベッド近くの姿鏡に隣り合って立った。
「……貴方なら優しい悪魔になれるわ。僕が導いてあげる、ずっといつまでも」
「悠人がずっといるなら、俺は……もう何もいらない」
悠人はエルフィンをそっと優しく抱き締めた。
「ずっと一緒。指切りしよ」
悠人とエルフィンは指切りをした。そして、悠人はエルフィンの剣で自分の人差し指に傷をつけて、血を垂らす。
「悪魔になるなら、僕の血を飲み込んで。ちょっと辛いかもしれないけど、エルならきっと大丈夫。僕を信じて」
悠人はニッコリと微笑み、エルフィンに血が流れている人差し指を差し出す。エルフィンは少し戸惑うも、悠人が言った通りに指を舐め、悠人の血を飲み込んだ。それを見た悠人は床に紫色の魔法陣が出現させ、詠唱を始めた。
「我が名は悠人。汝、ネメシスに命ず。この者エルフィンに漆黒の地への許しを請う。インディグネーション!」
紫色の魔法陣は一層に光り輝き、天から禍々しく赤黒い剣が飛んできて、エルフィンの心臓を貫いた。
「うがぁーーーーーーーっ! うぐぐぐっ、あぁーーっ!」
エルフィンは叫び、床にのたうち回る。悠人はエルフィンから剣を抜き去る。エルフィンの叫び声を聞いて、アスターが部屋に入ってきた。
「っ! 悠人様、なんとこれは……。その剣、もしかして」
アスターは開いて塞がらない口を手で覆って、膝から崩れ落ちた。
「あ、アスター。ごめんね。僕はもう天使なんかじゃない、天使の力も持っている悪魔なんだよ。悪魔の君が分かっていなかったとは思っていなかったけど。……そうだ、君もこの国を救うためには一度滅ぼさないといけないってずっと考えてるんでしょ?」
「……さ、流石に悠人様にはお見通しだったのですね、恐れ入ります」
「ははっ。でもね、別に無差別にやる訳じゃないよ。僕だって考えがある。そろそろ目覚めるかなぁ」
「はぁはぁ……おお、力がみなぎってくる! これが本当の俺か! はははははっ!」
エルフィンはゆっくりと立ち上がり、漆黒の翼を大きく広げ、高笑いをした。
「さて、この剣はエルの剣だよ。まずは肩慣らしにヘレボルスの森へ行こうかなぁ」
「ゆ、悠人様。あそこは今、シュライツ様の騎士団がいる場所でございます……っ!」
悠人はアスターの背後に瞬間移動して、耳元で囁いた。
「何? 止める気なの?」
「い、いえ……滅相もございません」
「だったら、皆で行きましょう! 僕、まだ城外から出た事ないし、気分転換しないと」
悠人はエルフィンと腕を組み、縋りついた。
「私はご遠慮させて頂きます。地下牢で生きていた者の世話をしなければならないので……」
アスターは目を泳がせながら、悠人とエルフィンにお辞儀をする。
「じゃあ、エルがヘレボルスの森まで案内してよ! 僕らの初デートだよ! エルの頑張ってる姿見たいなぁ」
「ああ、分かった。俺のかっこいい姿を見てくれ!」
そう言うと、窓をぶち抜き、悠人は純白の翼と漆黒の翼を広げ、エルフィンは漆黒の翼を広げ、ヘレボルスの森へ飛んでいった。
森ではシュライツの騎士団が魔物と交戦しているのが上空から見えた。悠人はシュライツに向けて、手を振った。それに一人の兵士が気が付き、急いでシュライツに報告した。
「シュライツ様! 大変です! あそこをご覧ください!」
「……聖人だと!? 確か『絶望の間』に閉じ込めていたはずなのに! え、消えた?」
シュライツは上空を見渡すが、悠人を探す事が出来なかった。次の瞬間、背後でドサッという音がして、振り向いた。その光景を見て、シュライツは血の気が引いた表情をして、絶句した。
「シュライツ様、お元気ですか? やっと会えましたね! 僕はとっても嬉しいです」
悠人は血しぶきが散った顔を手で拭い、その血を舐めながら、シュライツに対して微笑みかけた。
「おまっ、おまっ、お前! 何をしている!」
「え? 何って? 天罰に決まってるでしょ? 今からエルとデートなの。メインディッシュの貴方はそこで静かにしててもらってもいいですか?」
悠人はシュライツの頭を持ち、近くの木に打ち付け、指を鳴らし、赤黒い紐で縛り付けた。
「がはっ! 天罰とはどういう意味だ!」
「もうこれだから……人間は低俗って言われるんだよ。さぁ、エル。かっこいい所を見せてね」
「悠人の仰せのままに」
エルフィンは剣を構えると、横にひと振りした。一瞬、時が止まったように静寂となり、次の瞬間、疾風のごとく、木々は切り倒され、兵士達も崩れ落ちた。逃げようとする兵士を一人も残さず、兵士を追いかけるエルフィンの高笑いが響き渡る。
「……ひぃ」
そして、森はどんどん赤黒く染まり、小さな湖も血で赤く染まった。その残酷な光景を見て、シュライツは思わず漏らしてしまった。
「エル、すごい! ますます好きになっちゃう!」
「悠人のお陰だよ」
エルフィンは剣から滴る血を振り落とし、鞘に納めた。そして、悠人はエルフィンに駆け寄り、エルフィンに抱きかかえられ、キスをした。
「お前達、何をしているのか分かってるのか!」
「シュライツ様。今まで貴方がやってきた事……分かってます? それでも分からないなら、お話にならないので、ここで魔物と一緒に消えて下さい。エルは僕の後ろに下がってて」
悠人は胸元に手を突っ込み、白銀と漆黒が纏った剣を体から抜き出した。
「そ、それはなんだ!」
「これ? これは審判の剣だよ」
悠人が手を挙げて、詠唱をし始めると、審判の剣は空高く上がり、無数の剣に分離した。空は剣で埋め尽くされた。
「……我が名は悠人。我、ここに来たれし者達に善悪の秤を持ちて根絶す! ユーディキウム!」
詠唱後、挙げてた手を勢いよく下げると、剣が一斉に目標へ向かって、風を裂く音を響かせながら、目にも止まらぬ速さで魔物達やシュライツもろとも串刺しにした。そして、瘴気は消え、森は澄みきった風と小鳥がさえずる声が聞こえ始めた。悠人はシュライツの拘束を解き、剣を一本一本ゆっくりと抜いた。
「やっぱり、審判下っちゃいましたね、シュライツ様。貴方の罪は一生償ってくださいね。今まで貴方の趣味で何人の者が亡くなっているか、その低能な頭でよく考えて下さいね」
悠人はしゃがんで、屍となったシュライツの頭を指で突っつき、不適な笑みを浮かべる。そして、悠人はエルフィンが近付いてくるのが分かると、次は満面の笑みで振り返った。
「よし、討伐終わり! 楽しかったぁ。大好きなアルと一緒に闘う事が出来て、僕は本当に嬉しいよ」
「俺もです。見事な剣術魔法でした。さて、馬を二頭準備出来たので、城へ戻りましょう」
「とりあえずエルは翼を仕舞って、いつもの状態になって。ほら、僕とキスして。私は聖人の装いにならなきゃ」
エルフィンは悠人と舌を絡ませながらキスをした。そうすると、エルフィンは青の騎士団長エルフィンの姿に戻った。悠人は予め鞄に用意しておいた聖人の服を着た。
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