番外編:トゥルーエンド分岐③(枯れた涙と、冷たい心)

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番外編:トゥルーエンド分岐③(枯れた涙と、冷たい心)

 エルフィンに先導してもらい、悠人はシュライツを抱きかかえ、馬の手綱を持ち、城門に向かった。  城門の兵士はエルフィンの軍服や悠人の聖人の服に血しぶきなどが飛んでいる事に驚きながら、急いで城門を開けた。 「ああ、ああ、シュライツ様が、シュライツ様がぁ……兵士の皆さんも……到着した時にはもう」  悠人は抱きかかえていたシュライツをさらに抱き寄せ、嘆き悲しんだフリをした。 「ひぃ……、は、早く王宮に。シュライツ様は私達で運びます」  悠人は担架にシュライツを下ろし、自分も馬から降りた。そして、運ばれようとするシュライツに駆け寄り、何度も名前を呼び、嘆き悲しむ姿をした。大通りを歩いている民にわざと聞こえる様に泣き叫んだ。そして、エルフィンに目で合図をし、悠人の首根っこを掴み、引き留めさせた。 「ああ、シュライツ様がぁ。私が聖人として、きちんと学んでいれば、こうならなかったのに……。国王様が地下牢に閉じ込めて、他の奴隷達と一緒に……ああ、思い出しただけで身震いがして……あ、眩暈が」  大通りで一際目立つ場所で迫真の演技をし、国民達は騒然としていた。そして、悠人は眩暈の演技をしながら、エルフィンの手を取り、乗馬した。エルフィンの前に座り、両手で顔を隠し、肩を震わせ、泣いた。その演技している悠人を後ろからそっと抱き締めた。 「さ、玉座の間までエスコートさせてください」  エルフィンは馬を走らせ、王宮に入り、新しい服に着替え、玉座の間へ向かった。扉の向こうでは国王が凄い剣幕で怒り狂っていた。国王はエルフィンと悠人に罵声を浴びせた。 「どういう事だ! 説明しろ!」 「説明? シュライツは死んじゃいました、兵士も全員。もちろん魔物も倒しましたよ、エルと僕の二人で。森にあった瘴気は無くなりましたよ」 「えぇい、国王様の前だぞ。口の利き方に気を付けろ」 「え? ここにいらっしゃる一部の方々もご存知かと思いますが、国民を拉致し、地下牢に監禁し、自分達が遊んだ後はポイするか、他国に売りつける。魂なき者はそのまま放っておいて……いつかゾンビになりますよ。そんな外道な事をしている人に対して、口の利き方なんて関係ないです」  国王と言い争っていると、玉座の間の扉が勢いよく開いた。 「緊急です! 兵士達と国民達が王宮の広場に集まって、暴動を起こしています!」 「なんだと! 分かった。広場が見えるバルコニーへ向かおう」  国王の後を追いながら、エルフィンと悠人、あとは呼び寄せたアスターと一緒に走った。王宮の広場では皆が声を荒げて、国王に対する不平不満を言い、プラカードを掲げて訴えていた。 「こ、これは……なんという屈辱」 「屈辱? 国王様、何をおっしゃってるんですか。今から真実を話せばいいじゃないですか」 「……我が名は悠人。汝、テミスに命ず。剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力である。正しき裁きを受けよ! コンフェス!」  国王の足元が白く輝き、国王の目の前には白銀に輝く剣が国王の心臓の位置で空中に浮いている。 「国王様、真実を全て話さないと、嘘の程度で剣が徐々に近付いてきて、心臓を貫きますからね」 「……ちっ、分かった。国民に話す」  国王は広場にいる兵士や国民達に真実を話した。内容はこうだ。アーベルトビッツ王国の財政が厳しくなり、その時に奴隷売買の話を持ち掛けられ、無差別に国民を拉致し、地下牢に閉じ込めた。鬱憤を晴らすため、奴隷に鞭で叩いたり、足で蹴ったり、更には犯していた事。それには、シュライツやその騎士団も加担していた事。悠人の事も喋った。聖女を召喚するはずが、聖人だっただけの理由で地下牢に閉じ込め、薬漬けにし、犯しに犯した事。 「アスター、牢獄されてて生きてた人をここに呼んで。私は亡骸を拾ってくるから、他の貴族にも目を光らせて」 「承知いたしました、悠人様」  アスターは以前に助けた三人を呼び戻した。アスターのお陰で地下牢にいた時より随分元気になっていた。悠人は転送魔法を使い、地下牢へ行き、一人ひとり丁寧に白い布に包み、広場に並べた。どうやら家族や恋人だった者が駆け寄り、大事そうに抱きかかえ、すすり泣いていた。生きている三人の家族も見つかり、久々の再会に肩を組んで、泣きながら喜んだ。 「さて、このような外道な行為をした国王様はどうすべきでしょうか?」  悠人は広場にいる皆に質問をした。当然の通り、国民は『死刑』を望んだ。 「国王様、これが答えです。……それでは、これより罪の償いをしていただきます」 「死刑執行! ……謝罪も出来ない国王は人間以下ですよ、さようなら」  白銀に輝く剣が勢いよく国王様の心臓を貫き、白色のバルコニーに血が飛び散った。 「アスター、この汚いの城外で木っ端微塵にしてきなさい。これ以上素敵な城を汚したくない。あと、関係ある貴族もお願いね。遠慮しなくていいから、貴方は優しいお方だから」 「優しいなど……滅相も無い。ご命令に関しては承知いたしました。では、先に失礼させて頂きます」  アスターは国王と奴隷売買に関わった貴族を捕え、転移魔法で城外まで飛んでいった。そして、終始無表情でいる王妃に声をかける。 「王妃様、次の国王は勇敢なエルフィンなんていかがでしょうか?」 「……そ、そうよね。ゴホンッ! 皆の者、よく聞け! 聖人様の有り難きお言葉を頂戴した。これよりこの国の王はエルフィン・アーベルトビッツとする事をここに宣言する!」  王妃の力強い声が広場に響く。そして、兵士や国民達は拍手し、歓声を上げる。 「エル、おめでとう!」 「ありがとう、悠人!」  二人は抱き合って、笑い合った。 「あとは……宮廷魔導師セレスト様に、宮廷召喚士グラント様だ。まぁ、あの二人を手懐けるのは簡単かなぁ。ふふふっ」  悠人はセレストには魔力の補給という名目で、グラントには召喚の儀での体力づくりを名目に、それぞれを誘惑し、体の関係となった。エルフィンには勿論その旨を伝え、良いようにさせてもらっている。  新国王に就いたエルフィンは執務も良くこなし、青の騎士団の隊長も兼務し、日々鍛錬している。時折、差し入れを持って行ったり、兵士達とも色んな意味で仲良くさせてもらっている。 「エル……世界で一番愛してる」 「悠人、俺も世界で一番愛してる。堪らない位に」  薔薇が咲き誇る庭園でエルフィンと悠人は熱いキスをした。  私達は今までで一番幸せだ。そして、ずっと一緒に歩んでいくと誓った。
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