第10話:一人ひとりの願いはどこに向かっていくのか

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第10話:一人ひとりの願いはどこに向かっていくのか

 結局、シュライツ率いる赤の騎士団はヘレボルスの森での闘いで多くの命を失い、早々に撤退し、王都に着いた。  城門では悠人とエルフィン、そして、エルフィン率いる青の騎士団が待ち構えていた。 「シュライツ、お前が『絶望の間』で犯した罪で拘束する。捕らえよ!」  エルフィンは兵士達に指示し、シュライツを拘束した。 「何のつもりだ! 私は何もやっていない! 離せっ!」 「国民を無差別に拉致し、地下牢に閉じ込め、好き勝手やっていた奴がいつまで白を切るつもりだ! ここにいる者を見ても、それが言えるのか!」  エルフィンの後ろから悠人は姿を現した。シュライツは悠人の姿を見て、目を見開き、力が抜ける様に膝から崩れ落ちた。  一方、王宮ではすでにアスターや残りの兵士達により、国王と奴隷売買に加担した貴族達を拘束し、絶望の間に投獄していた。 「シュライツ並びに赤の騎士団の兵士達ともに、絶望の間に投獄す!」 「……そんな」  シュライツと赤の騎士団の兵士達は縄で縛られ、青の騎士団に連れられながら、大通りを通り、絶望の間へ投獄した。国民達はその様子にひどく驚き、騒然としていた。  絶望の間に投獄されても、シュライツと国王は黙秘を貫いたが、貴族や兵士達が次々と自白し、誰もシュライツや国王に味方する者はいなかった。  悠人に酷い仕打ちをした事と地下牢の奴隷の存在については、瞬く間に王国中に話が広まった。  そんなある日、城内がいつも以上にバタバタしており、おかしいと思った悠人はアスターに聞くと、今日が国王とシュライツの公開処刑の日である事を知り、処刑が行われるコロシアムに向かって、走り出した。 「……なんで、エルフィン様はこの事を教えてくれなかったの! もう間に合わない!」  焦っていた悠人は純白の翼と漆黒の翼を広げ、猛スピードでコロシアムへ飛んでいった。  コロシアムの観客席は見物人で溢れ返っており、国王とシュライツに対して、罵声を浴びせたり、石を投げる人達もいた。 「皆の者、静粛に! これより、国王とシュライツの処刑を始める。執行者、位置につけ! それでは、死刑執っ……!」 「ちょっとお待ちください!」  エルフィンが腕を振り下ろす合図をしようとした瞬間、悠人の声がコロシアムに響いた。見物人は上空にいる悠人を指差し、騒然とする。悠人はエルフィンの元へ行き、耳打ちをする。 「処刑はやめてあげて」 「――なぜ! お前や奴隷に酷い仕打ちをしたんだぞ。その罪は極刑で償ってもらうべきだ」 「エルフィン様、こんな事で貴方の優しくて温かい心を……穢したくない」 「悠人……お前……分かった。処罰を変える」  エルフィンは悠人に微笑みかけ、一度深呼吸して、コロシアム全体に響き渡る程の声で言い放った。 「処刑は取りやめ、二人を解放する! 解放と引き換えに、ヘレボルスの森周辺の領土をこのエルフィンに明け渡す。そして、私、エルフィンはこの国を捨てる! 未練など全て捨て、新しい国を作る。それに賛同する者は私に着いてくるがいい! 以上だ!」  コロシアムの見物人も兵士達もエルフィンの言葉が余りにも衝撃的過ぎて、開いた口が塞がらなかった。 「……私はエルフィン様に着いていきます!」 「お、俺もこんな国捨ててやる!」  コロシアムの観客席からは恐る恐る声を上げる者が出始め、最終的にはエルフィンの意見に賛同する人達に溢れた。 「エルフィン様……」 「俺の事はもうエルと呼べ。悠人、お前も着いてきてくれるか?」 「勿論だよ。……エル」  エルフィンは悠人を強く抱き締めて、下唇を噛み締めながら、うっすら泣いていた。  気持ちが落ち着いた頃合いを見て、エルフィンと悠人は王宮に戻った。国王やシュライツにも会わず、黙々と新国設立のために準備を進めていた。  今日はヘレボルスの森に赴き、魔物討伐と結界を張る大仕事が待っていた。 「悠人、準備は大丈夫か?」 「うん、大丈夫。たぶんすぐ終わると思うけど、結界を張るのがちゃんと出来るか心配……」  馬に乗ったエルフィンは悠人の手を取り、自分の前に座らせた。 「毎回、エルに乗せてもらえるのは嬉しいけど、そろそろ自分の馬が欲しいかな……」 「いいじゃないか。くっつくのがそんなに嫌か?」 「嫌じゃないけどさ、色々と……さ」  悠人が恥ずかしがっていると、後ろから馬が歩いてくる音が聞こえた。 「皆が見てますから、愛を育むのは程々に。……ゴホンッ、悠人、私達も一緒に同行しましょう」  振り返ると、セレストとグラントがいた。 「――とても心強いです! ありがとうございます!」 「では、早速行くか」  エルフィンは先陣を切り、青の騎士団はヘレボルスの森へ向かった。
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