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第11話:エルフィンの覚醒
悠人達はヘレボルスの森の入り口に辿り着いた。周りは瘴気に満ちており、草木は枯れ、動物の声すら聞こえない位に静かであった。
エルフィンは宮廷魔導師セレストと先陣交代し、セレストが光属性魔法で瘴気を浄化させながら、前へと進んでいった。シュライツが率いていた赤の騎士団の亡骸があるかを確かめながら進むが、エルフィンが見渡す限り、亡骸どころか、血の一滴も見当たらなかった。
「……亡骸も血すらないとはだいぶ貪欲な魔物か、魔物の数が多いのか? 皆、気を付けろよ!」
用心しながら、森の奥地にある湖に辿り着いた。湖は毒々しい紫色に染まっており、先程よりも瘴気がかなり強く濃くなっており、皆、腕で口を覆った。
セレストはグラントと顔を見合わせ、意見が一致したのか頷き、後ろにいるエルフィンに声をかけた。
「皆さん、止まってください! これ以上進むのは危険です」
「……そうだね。これは結構酷いかも。でも、大丈夫。セレスト様は小結界を張って、兵士達を守って。グラントは火以外のものを召喚して、敵が襲ってきたら、対応して。そして、そこから決して前に出ないでね」
「お二人で行くおつもりですか! 無茶ですよ!」
「セレスト、悠人の言葉を信じてやってくれ。悠人、馬から降りるぞ」
エルフィンと悠人は馬から降りて、湖の畔近くまで進んだ。そして、悠人は咳払いをし、皆に聞こえる様に話した。
「今から起こる事はとても悍ましいと感じる者もいるかもしれない。でも、僕もエルも自分の国のため、民のために闘う。皆に危害を加えるつもりは一切ない。だから、今から行なう儀式を見ても怖がらないで下さい。……さ、エル、こっちに来て」
悠人はエルフィンの手を取り、湖畔の前で向かい合わせになった。
「今、エルに眠っている悪魔の力が必要なの。悍ましいかもしれないけど、エルならきっと優しい悪魔になれると信じている。もう一度聞くよ、皆のために悪魔になってくれる?」
「……少し不安だが、皆のため、未来のためになるのなら」
悠人はエルフィンの両手を強く握り、微笑みかけた。そして、悠人は取り出したナイフで自身の人差し指を傷付け、血を流した。
「悪魔になるなら、僕の血を飲み込んで。ちょっと辛いかもしれないけど、エルならきっと大丈夫。僕を信じて」
「……っ! 悠人様、その儀式はいけません!」
グラントが大声を出して、駆け寄ろうとするが、悠人も小結界を皆にばれない様に張っており、グラントは体ごと弾かれ、入る事が出来なかった。
「グラント、大丈夫。エルを信じてあげて」
悠人はニッコリと微笑み、エルフィンに血が流れている人差し指を差し出す。エルフィンは少し戸惑うが、悠人が言った通りに指を舐め、悠人の血を飲み込んだ。それを見た悠人は地面に紫色の魔法陣が出現させ、詠唱を始めた。
「我が名は悠人。汝、ネメシスに命ず。この者エルフィンに漆黒の地への許しを請う。インディグネーション!」
紫色の魔法陣は一層に光り輝き、天から禍々しく赤黒いオーラを放つ剣が轟音を立てて、落ちてきて、地面に突き刺さった。悠人はその剣を持ち、躊躇なくエルフィンの心臓を貫いた。
「――っ! うがぁーーーーーーーっ! うぐぐぐっ、あぁーーっ!」
エルフィンは叫び、自身の血で濡れた地面をのたうち回る。そして、悠人はエルフィンから剣を抜き去る。悠人がエルフィンを刺した事や今まで聞いた事がないエルフィンの雄叫びに皆が驚き、少し後ずさりした。セレストとグラントは絶望的な顔をして、膝から崩れ落ちた。
やがて、のたうち回っていたエルフィンの動きがピタリと止まり、肩で息をするように、ゆっくりと立ち上がり、自身の体をあちこち見ていた。そして、漆黒の翼を大きく広げ、高笑いをした。
「はぁはぁ…… これが本当の俺か! はははははっ!」
「……この剣は憤怒の悪魔サタンの剣。これはエルの剣だよ」
悠人はサタンの剣を鞘に納め、エルフィンに手渡した。
「じゃ、準備が出来た事だし、僕も剣を取り出そうかな。――うぐっ!」
悠人は胸元に手を突っ込み、体内から白銀と漆黒が纏った剣を体から抜き出した。
「っ! エルフィン様がお持ちなのはサタンの剣、そして、あれは審判の剣……存在するとは!」
セレストとグラントは驚き、開いた口が塞がらず、手で口を覆っていた。
悠人は純白の翼と漆黒の翼を広げ、エルフィンと手を繋いで、皆が待機している場所へ近付いた。
「ひぃぃぃ……」
兵士達は瞳孔が血の色で漆黒の瞳となったエルフィンの何とも言えない威圧的な風貌に腰を抜かし、血の気が引いた表情をして、足に力が入らず、その場に留まる事しか出来なかった。一方、セレストとグラントは動揺しながらも、地面に膝をつけ、礼をした。
「……皆、驚かせてごめんなさい。僕もエルフィンも悪魔だけど、皆を守りたい気は誰よりもある。皆が笑顔で楽しく暮らせるような土地にしたい。今度は一緒にお酒を呑んだり、美味しい料理を食べたりしたい。そんな明るい国にしたい」
「悠人が言った通り、お前達は私達を悍ましいと思うかもしれない。私自身も最初そう思った。しかし、本当の自分に向き合って生きたいと……悠人が教えてくれた。私は皆が安息出来る国を作りたい。お前達が私の騎士団に入ってくれた事は本当に感謝の言葉しかない。こんな姿になっても、私に着いてきてくれるか?」
兵士達は顔を見合わせたが、立ち上がり、一斉に敬礼した。
「この命尽きる限り、エルフィン様にお仕えいたします!」
「私達もお仕えいたしますよ」
セレストとグラントは立ち上がり、悠人達に微笑みかけた。
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