第3話:赤色の騎士と藍色の騎士

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第3話:赤色の騎士と藍色の騎士

「この素敵な庭園が見れるのも……これが最後なのかもしれないですね、残念です」 「……申し訳ありません」  悠人が感傷に浸っていると、ドアをノックする音が聞こえた。 「失礼します。セレスト様、国王様がお呼びです。聖人様とご一緒に玉座の間までお越し下さい」 「……悠人様、一緒に行きましょう。何かあれば、お助けいたしますので」  悠人はセレストの後ろ姿をただボーっと見ながら、玉座の間へ向かった。  玉座の間の扉を兵士が開け、一歩中へ進むと、玉座まで真っ直ぐに敷かれた赤色の絨毯が目に飛び込み、奥には国王と王妃であろう人が座っていた。更に、上を見上げると、煌びやかなシャンデリアや装飾、絵が描かれており、他の部屋と大きく違う事が分かった。 「国王様、聖人様をお連れ致しました」  セレストは跪き、国王に礼をする。悠人はどうしたら良いか分からず、重々しい空気に思わず固唾を呑んだ。 「セレスト。わしは聖女を連れて来いと言ったが、何の冗談だ?」  国王は眉間に皺を寄せ、悠人を凄い剣幕で睨み付けた。セレストは頭を上げ、国王に事情を説明し始める。悠人はさっきセレストに気を付ける様に言われた赤の騎士だろうか、こちらを見て、ニヤリと笑っていた。その隣には藍色の軍服を着たがっしりとした体型の男が冷たい表情で悠人を見ていた。 「……聖人では意味がないと言ったではないか! こいつは国外追放にしろ!」 (国外追放か……殺されないだけ有り難いのかな?)  国王が国外追放を言い放った瞬間、その場に居た貴族達はどよめき、騒然としていた。そして、セレストと藍色の軍服を着た男がハッとした表情になり、国王に提言しようとしていたが、早々に兵士達が悠人を拘束し、玉座の間から連れ出そうとしていた。悠人は体を縛られ、手荒く連行されていたが、抵抗する気も起らなかった。 「父上、お待ちください! 私に良い案があります」  そんな騒然とする中で、綺麗な声が玉座の間に大きく響き渡る。それを耳にして、皆が一気に静まり返る。声がする方を振り返ると、金色の髪が美しく輝く、赤色の軍服を着たスレンダーな青年が手を挙げていた。例の赤の騎士だ。 「我が息子シュライツ、良い案とは何だ」 「私、シュライツがこの者を国のため、民のために使えるように致しましょう。野放しにするのは勿体無いです。赤の騎士である私に全て任せていただけないでしょうか?」 「……それもそうだな。お前の好きなようにすれば良い」 「ありがとうございます、父上」  国王は赤の騎士であるシュライツに悠人の事を任せた。シュライツは胸に手を当て、国王に礼をした。金色の髪の毛の合間から不適な笑みが少し見えた気がした。セレストは血の気が引いた表情をしており、シュライツの隣にいる大柄の男はシュライツを睨み付け、舌打ちをしていた。  悠人は縄を解かれ、シュライツは後ろに立っていた使用人に耳打ちをし、悠人を客間に連れて行くように指示した。使用人が悠人に近付き、客間まで案内してくれた。 「悠人様、こちらの御召し物に御着替えください。お疲れだと思いますので、ゆっくりお寛ぎくださいませ。何かございましたら、何なりとお申し付けください。それでは失礼いたします」  悠人は使用人から白色を基調としたロングベスト付きのローブと国旗が刺繍された布ベルトを渡された。悠人は早速着替えて、鏡の前に立った。 「召喚された部屋にいた人達が着ていた服とはちょっと違うな。……それよりもう疲れたから、ベッドで寝よ」  悠人は天蓋付きベッドに横になり、いつの間にかスヤスヤと眠りについた。 「……と、……うと、悠人。まだ眠っているのか?」  誰かが悠人に呼びかけ、体を揺さぶってるのに気付く。悠人は目を擦りながら、声がする方をぼんやり見た。 「誰……ですか。もうちょっと寝ていたいのに」 「すまない。俺はエルフィンだ」  藍色の軍服を着ており、黒に近い濃灰色の髪に青い瞳をしたがっしりした体型の男が立っていた。 「僕、寝起き悪くて……ッ! すみません!」  悠人は飛び上がり、ベッドの上で土下座をする。エルフィンは悠人を鋭い目で見つめていた。 「お前に忠告しておく。アイツだけは気を付けろ」 「アイツって……シュライツ様の事ですか?」 「ああ、そうだ。それを伝えに来ただけだ」  エルフィンは悠人の頭を優しく撫でると、そのまま部屋を出ていった。 「何だったんだろう…セレスト様も気を付けろって言ってたけど、どういう意味なんだろう?」  悠人はベッドから起き、月明かりが射し込む窓辺で今日の事を思い出す。思いにふけっていると、ドアのノックする音が聞こえた。 「悠人、今大丈夫か?」  振り返ると、シュライツが微笑んで、立っていた。 「シュライツ様、どうかされましたか?」 「夜遅くに申し訳ない。良かったら、悠人の世界の事を聞きたいんだが、私の部屋まで来てくれるかな?」 「……はい、構いません」  悠人はシュライツに手を引かれ、シュライツの部屋に招かれた。 「素敵なお部屋ですね」 「はははっ、そうかい? ありがとう。今、お茶を淹れるから、適当に座ってくれ」  悠人は窓際にある小さな丸いテーブルの椅子に座り、窓から月を眺めた。 「お待たせ。口に合うといいんだが……」  シュライツが悠人にハーブティーを持って来て、正面の椅子に座る。悠人は軽く会釈し、ハーブティーの香りを楽しんだ。セレストが淹れてくれた時と違う香りがするお茶だな、と思った。 「ハーブティーはやはり嫌いか?」 「いえ! とんでもないです。淹れて下さって、ありがとうございます。頂きます」  切なそうに見てくるシュライツにドキッとしながら、悠人は淹れてもらったハーブティーを一気に飲み干す。そして、シュライツは悠人が飲み切ったのを見て、ニッコリと笑いかける。悠人は少し緊張しながら、今日あった出来事や向こうの世界での話をした。 「おっと、だいぶ月も傾いてきたね。今日は楽しかったよ」 「そうですね。私はこれで失礼し……ま……?」  悠人が椅子から立ち上がろうとした瞬間、体に力が入らなくなり、視界がぐらついた。そして、テーブルを掴もうとするが上手く掴めず、陶器製のカップに体が当たり、床に落ち、割れる音がした。それと同時に、悠人は床に倒れ込み、意識が遠のいていくのが分かった。 「悠人、大丈夫かい? ちょっと薬が多かったかな? まぁ、聖人だから、死なないか。今、死なれたら、僕が困るからね。ふふふっ、あははははっ!」  シュライツは意識を失った悠人を抱きかかえる。そして、床に散乱したカップの破片で悠人の頬に傷をつけ、そこから流れてくる血を楽しそうに眺めながら、血の流れに逆らって、舌で美味しそうに舐め取った。
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