第6話:『絶望の間』の真実と悠人の救出

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第6話:『絶望の間』の真実と悠人の救出

「いざ出陣! 今度こそ勝利するぞ!」  翌朝、シュライツ率いる赤の騎士団がヘレボルスの森へ向けて、旅立った。城門までの大通りは多くの人々が集い、声援を送っていた。エルフィンは念のため、自室から双眼鏡で悠人の姿が隊列の中にいない事を確認した。そして、民に向けて笑顔で手を振っているシュライツの姿を見て、舌打ちをして、眉間に皺を寄せた。  夜になり、月夜の灯りで城内廊下が冷たく照らされていた。エルフィンとアスターの二人は悠人が居るであろう地下牢に続く下り階段近くの茂みに身を潜めていた。 「やはり、兄上の事だ、抜け目がないな」  他の持ち場はエルフィン率いる青の騎士団に任せられているが、この地下牢の入り口だけはシュライツの兵士が警備していた。 「くそっ、胸糞が悪い。そんなに知られたくないのか」 「さて、坊ちゃんはこちらでお待ち下さい。兵士二人位、容易い事です」 「お、おい。アスターが一人で行くのか?だったら、私も!」 「坊ちゃんは目立ちますので、私が合図をしましたら、おいで下さいませ」  アスターはエルフィンに微笑みかけ、茂みから一人で出ていき、地下牢の入口へと進んだ。 「――っ! アスター、止まれ。ここで何をしている」 「ふぉふぉ。そんな剣幕にならなくてもよろしいじゃないですか。私はシュライツ様のご命令で悠人様に花束を持って行くように託けられましたので……シュライツ様がご自身が居ない間、悠人様が寂しがるとおっしゃっていたので」 「……シュライツ様がそんな事を。よし、分かった。その花束を預かろう」  アスターが持っていた花束を兵士が無理矢理奪おうとするが、アスターは華麗に避けた。 「ふぉふぉ。そんな乱暴に扱うと、花が散ってしまいますよ。この花束が悠人様に相応しいか、どうかお二人とも香りを嗅いでいただけないでしょうか?」  二人の兵士は首を傾げながら、アスターが持つ花束に鼻を近付け、香りを嗅いだ。 「これはあの性人様に相応しい……かお……り……」  二人の兵士は花の香りで意識を失い、その場に倒れ込んだ。アスターは他の者から見えないように、地下牢への下り階段の隅へ兵士を引きずり隠した。そして、地下牢の鍵を手に入れ、エルフィンに合図を送った。エルフィンはボロ布の長いローブを身に着け、フードを深く被って、地下牢の扉へ向かった。 「――うっ、なんだこの臭いは!」  エルフィンは思わず腕で口と鼻を覆った。地下牢の扉の隙間からでも分かる位、何とも言えない臭いが漂っていた。 「坊ちゃん。この先は随分空気が悪うございます。中は恐らく真っ暗だと思われますので、私が火属性魔法で小さい火球を手元に出しますので、足元などにはお気を付け下さいませ。」 「あぁ、……分かった」  地下牢の扉を開け、廊下を進むと、ムワッとした生臭さと甘ったるい薬品のような臭いなどが徐々に強くなり、冷たく湿った空気に混ざり、どんよりと滞っていた。  廊下を歩いていると、小さい子供やすすり泣く女、項垂れた男が手枷を着けられ、項垂れていた。 「なんだここは!」 「……ここは本来、反逆者を牢獄する場所ですが、今の国王様になってからは奴隷売買のための牢屋でございます。あとはシュライツ様がご趣味を堪能される場所でもあります。……ここは『絶望の間』の名がついております」 「絶望の間……お、おい。あれはもしかして」  一際強い臭いを放つ牢屋があり、エルフィンが目を凝らして覗くと傷だらけの悠人が横たわっていた。エルフィンはその光景を見て、恐怖におびえ引きつった顔になって、開いた口が塞がらなかった。 「坊ちゃん。これが現実なのですよ……。さて、貴方様は他に囚われている者は見捨てて、悠人様だけをお助けになるのですか?」 「お、俺は……」  悠人は人の気配に気付き、咳き込みながら、ゆっくり起き上がる。ぼんやりとした悠人は二人の人影と小さな灯りを見つけると、かすれた小さな声で助けを求める。 「……た、……す、……け、……て」  エルフィンはアスターから鍵を奪い、鉄格子の牢屋を開け、悠人に駆け寄る。 「おい! おい、悠人! しっかりしろ!」 「みんな……を……ゴホゴホッ。たす……けて……」  悠人はエルフィンの頬を撫で、小さく微笑みかける。エルフィンは悠人の言葉を聞き、下唇を噛み、眉間に皺を寄せた。 「アスター、俺は決めた。ここに居る者全て助ける、必ず」 「坊ちゃんならそうおっしゃると思いました。ここは私にお任せ下さい。坊ちゃんは先に悠人様を私の小屋へ……」 「あぁ、分かった。他の者を頼んだぞ」  エルフィンは悠人をローブで包み込み、抱きかかえ、出口へ向かった。アスターは走るエルフィンの背中に向けて、一礼した。 「……死なないでくれよ、悠人」  エルフィンはシュライツの兵士に見つからない様に、アスターの小屋へと急いだ。
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