桜降る

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見上げれば、満開の桜もその先に見える青空も、春の日は何もかもが淡い色をしている。 桜並木の下をひとり歩きながら、この中に一つくらい、花開かなかった蕾もあるのだろうかとふと考えたけれど、あってもこのパステルカラーの世界に埋もれて誰も気がつかないだろう。 桜のシャワーを浴びながら、年若い男女が寄り添いあって歩いていた。互いに相手の顔を見ながら話すのに夢中で、前から歩いて来る自分のことなど視界に入っていないようだ。 さくらんぼみたいに瑞々しい笑顔を見ると、胸が冷たい針で刺されたように痛んだ。 うららかな日差しから目を背けて道の端に寄ると、日陰に桜の花びらが積もっていた。宙を舞ううちは日の光の中に溶けてしまいそうだった花びらが、今は地べたにうずくまった病人の肌のように青白く、だけれどもしかし、くっきりと浮かんで見えた。
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