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私だから、聴こえる旋律
「美琴のピアノが、私は大好きだった」
あなたのピアノが、憧れなの。
あなたが笑うと、嬉しくなるの。
「楽しそうに笑うあなたの演奏は、あなたにしか出来ないことだよ!あの日、私に価値をくれたのはあなただから」
ハッと息を飲む。
……自分の演奏なんか、才能のない偽物だと。
価値なんてないって。
誰も感動しないって。
ずっと自分で評価を下げてきた。
でも、確かに私はピアノが好きで、結愛の演奏が好きで、楽しいと笑える瞬間があった。
「私のピアノにも価値はあったんだ、私にしか、出来ないことが……」
そう、まだあった。
私にしかできないこと、私だから、できること。
……私だから、聴こえる旋律が、いつも心のなかにあったのだ。
「ありがとう。私のピアノに価値をくれて」
「それは私の台詞かな」
私たちは顔を見合わせて笑った。
これからもずっと、永久に響く音が、きっと今この瞬間から始まる。
【完】
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