私だから、聴こえる旋律

1/1
前へ
/10ページ
次へ

私だから、聴こえる旋律

「美琴のピアノが、私は大好きだった」 あなたのピアノが、憧れなの。 あなたが笑うと、嬉しくなるの。 「楽しそうに笑うあなたの演奏は、あなたにしか出来ないことだよ!あの日、私に価値をくれたのはあなただから」 ハッと息を飲む。 ……自分の演奏なんか、才能のない偽物だと。 価値なんてないって。 誰も感動しないって。  ずっと自分で評価を下げてきた。 でも、確かに私はピアノが好きで、結愛の演奏が好きで、楽しいと笑える瞬間があった。 「私のピアノにも価値はあったんだ、私にしか、出来ないことが……」 そう、まだあった。 私にしかできないこと、私だから、できること。 ……私だから、聴こえる旋律が、いつも心のなかにあったのだ。 「ありがとう。私のピアノに価値をくれて」 「それは私の台詞かな」 私たちは顔を見合わせて笑った。 これからもずっと、永久に響く音が、きっと今この瞬間から始まる。 【完】
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加