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期待の圧
「美琴、あなたはきっと最高のピアニストになるわ。」
それは私の夢じゃない。
でも、私の夢だった。
私の母の夢はピアニストだった。コンクールでも順調に順位を上げていたし、指も長く、将来有望だったのだろう。妬みの声も多かった。
真実は分からないが、母の指は確かに折られた。
ピアノは指が命だ。
ほんの少し狂ってしまった母の指が、感覚を取り戻すことはなかった。
その後妊娠した母は私を産んだ。
美琴という名前をつけて、物心ついたころからピアノを弾かせた。
その努力のせいか、私は小学生になる頃には大人のコンクールでも通用する実力を持ったピアニストになっていた。なりたくてなったわけじゃないから、練習もコンクールも苦痛だった。
そのくせ、ヤル気のない態度を責められて、ニュースにも面白おかしく取り上げられた。
ピアニスト達に苛まれた。
「お前なんか」
これが、仲間達の口癖だった。自分でもそう思った。この程度の演奏、私じゃなくてもできるのに。こんな音、誰だって鳴らせるのに。
そう思う心が、叩かれる原因だと理解した。
でも、直そうだなんて思わなかった。
無理矢理弾かさせている自分は被害者だ。
そう信じて、自分の心を守りたかったから。
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