期待の圧

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「君にしかできないんだよ」 何の感情もない声で大人たちは口を揃えて言った。 私にしかはできないからピアノを弾けと。 感動する演奏なんてできないのに、弾かされることに私はもう耐えられなくなっていた。 中学二年の春。 コンクールで舞台に立った私は、ピアノに向かいかけた足を止めてドレスを引き裂いた。その時点で会場も審査員も混乱していた。でも私はそこで辞めなかった。自分の心が止めるのを無視して、声高らかに叫んだ。 「ピアノなんてこの世から消えてしまえばいい!」 もちろん、炎上した。ピアノのコンクールでそんなことをいうなんて、頭がおかしいと。 若者はせっせとツイートを広め、人の気持ちを妄想して書き、アップした。 老人はこれだから若い子はダメだと、年齢を差別して世界のカーストの上位に立とうとした。 皆バカだと思った。私はとにかく荒れていた。 ピアノを辞めた私に価値はないと、両親は私を見放した。父は家を出ていったし、母も態度がころりと変わった。まさに手のひら返しだ。 だから、だから私はもうピアノに触れられない。 部屋中に舞い散った楽譜も、メロディも、私だけのメモだって。何もかもが、心を痛め付ける鞭にしかならない。 それならば、いっそ離れてしまった方が楽だった。
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