ダメなピアノ

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ダメなピアノ

「ダメ……?」 その言葉にガツンと頭の奥を殴られた。 【本当ダメね】 【信じられない】 【全く出来てない】 【そんなんじゃダメ。勝てないわ】 ダメってなに?私は私でちゃんと努力しているし、頑張ってる。勝てないとか、信じられないとか関係ない。私はただ、私らしくピアノを鳴らしたかっただけなのに。 出来てないとか誰が決めるの?譜面を正確に追えなかったら、誰かの心に届いても失敗なの? 勝てないからなに?私は勝ちたいから指を動かしているわけじゃない。 あなたたちの言う、って……なに? どんなに一生懸命に譜面を追ったって、間違えることはある。でも、最高に楽しいって感じて、周りから良かったよって笑ってもらえて、それの何がいけないと言うの? 私は成功だって思った。  神崎結愛のピアノは最高に心が震えた。リズム感はないし、ミスタッチも多いけど、温かくて、優しい音。 だから、あえて止めた。これ以上傷つく言葉を聞かせないように。 なのに、それなのに。 ダメ、だって? 「私には、私だから弾ける音がない。」 「え?」 結愛が頬を緩ませてきょとんとした。 「匂坂……急に何?」 リーダー格の女子たちもどよめいた。 下手だから止めたんじゃない。 守りたいから、届けたいから、止めたんだよ……!  「神崎さんのピアノはダメなんかじゃない。」 ハッとした。でも、気づいた時にはもう手遅れで、ツカツカと歩み寄ってくる女子たちに、私は手も足も出なかった。
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