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side 結愛 私にしか出来ないこと?
幼少期から、ピアノが大好きだった。やわらかく優しい音が響く、教室の雰囲気が大好きだった。でも、私には、天性の才能というものがなくて、どんなに練習しても、演奏は上達しなかった。
停滞したままの実力で、コンクールに出た時、目を見張るような演奏をする女の子を見た。
「すごい……。同い年だとは思えないわ」
でも、ピアノが好きというわけではなさそうだ。
無表情を貫いて、ただ目標に向かってまっすぐ進んでいる。
それなのに、最高に響く演奏をできる。
これこそ、天性の才能というものだろう。
「ねえ、あなた」
「え?わたし?」
憧れの女の子に声をかけられた。
ぱあっとその子の表情が変わって、光輝くような笑顔になる。
「すごいね!」
「?!」
「あなたの演奏には価値があるよ!とっても心が温かくなった!」
そんなことを言われたのは初めてだった。だから、もう少しだけ、私にしかできない演奏をしたいと思ったんだ……。
その後、高校でその子と再会した。
あの時はゆーちゃん、みーちゃんと呼びあっていたが、美琴と呼ぶようにした。
気づいてくれるかな?なんて、淡い期待を抱きながら、日々を過ごしていた。
でも……美琴はあの時のように笑わなかった。
ピアノの話もしなかったし、私が話しかけても無反応。
「神崎さんにやらせれば?」
だなんて言葉を聞いたときには、思わず俯いてしまった。驚いたのだ、彼女の変化に。
何かあったことは知ってる。
でも、彼女が私の演奏に価値をくれたことに間違いはない。
だから今日も、私は、美琴に笑いかける。
美琴の演奏に、あの日くれたような価値をあげられるように。
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