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結衣がまさか、自分の知らないところでそんな目に合っているとは知らなかった。
(故意に沈めた?結衣を?なぜ…)
その場に居合わせたということは、もし助ける気があれば、その人物は結衣に手を差し伸べて、助けることもできたのだ。
(誰なんだ?それは)
「麻里ちゃん、大丈夫か?」
心配そうな相馬の声が横から聞こえて、思考が断ち切られた。
話し終わった麻里の顔は、少し青白くなっているように見えた。グラスに添えた小さい手が、震えている。
(あ……)
ふといつかの幼い日のように、その手に自分の手を添えて、震えが止まるまで温めてあげたい気がした。
だが、自分はもう四歳の子供ではない。長い時間が過ぎた。自分も結衣も、もうあの時と同じではない…。
瀬野が固まってる間に、相馬はテキパキと麻里の面倒をみていた。
「少し甘いものを摂るといい。気分が落ち着くからな」
自分が頼んでいたホットの紅茶のカップに、砂糖を足してかき混ぜると、麻里に勧める。
「ありがとう。ちょっと気分が落ち着いた」
温かい紅茶を飲んで、笑顔を見せた麻里の顔に血の気が戻ってくる。
「そうか、よかった」と相馬も微笑った。
「話はわかった。その記憶が確かなら……結衣ちゃんが池に落ちたのは事故ではない。そして殺人者は今も我々と同じ様に、普通の顔をして生活しているのだろう。——犯人は我輩が必ず見つけ出そう。安心して、待っていてほしい」
「うん。相馬くん、ありがとう」
それからいくらも経たないうちに、ケーキを購入してきた周平が帰ってきて、その場はお開きになった。
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