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永井怜子という子は、家が近くて学区が同じだったため、小学校から同じ学校だった。
外見は、もともとくせっ毛らしい髪を、いつもきっちり三つ編みにして、黒縁の眼鏡をしている。けれど今は、くせっ毛をきれいな直毛に整えておろしているし、眼鏡っ子の印象が強い黒縁眼鏡もしていない。
どうりですぐに彼女だとわからないはずだ、と納得した。女子というのは、変わればかわるものだ。
記憶を辿れば、幼い頃から口数が少ない子だった。顔に表情が出にくいようで、一部の男子からは、揶揄いや悪戯の対象にされていた。
そんな時は、怒鳴るでも泣くでもなく、強烈な眼差しで相手を睨みつけていて、案外気の強い子なのかな、と思った覚えがある。
やや意外だったのが、男子なんて寄せつけないタイプだと思いきや、怜子から話しかけてくることが多くあったことだ。
それで同じクラスや委員会の時は、たまに話をする間柄になっていたが、高校に入ってから姿を見たのは久しぶりだった。
一緒に中庭へ移動しながら、回想していると怜子が話しかけてきた。
「瀬野くん、足を怪我したって聞いたけど大丈夫?」
「ああ――普通に歩く分には問題ない。痛みももうだいぶ治ってきたし」
「そうなんだ」
彼女の返答はどこか上の空で、言葉が途切れた後の沈黙に、急に緊張が伝わってくる気がした。
「……部活、辞めたって聞いた」
「ああ、うん」
「………瀬野くんて、今誰か付き合ってるひといるの?」
「いや、いない」
「あたしずっと……前から瀬野くんのことが好きで」
そこで一旦、言葉をきると、怜子は紅潮した顔を俯けて、堰を切ったように早口で話し始めた。
「でも、瀬野くんが誰に告白されても、『部活に集中したいから』ってみんな断ってたのも知ってる。だから今なら……その、時間というか、余裕があると思うの。今すぐ好きにならなくてもいいの。でもお互いのこともっとよく知り合えたらって」
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