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彼女が言葉を途切れさせたので、瀬野は深みにはまる前に、早めに口を開いた。
「オレのこと、よく思ってもらえるのはうれしいけど……」
いつもはこの後、『今は部活に集中したいから』と続けるのが定番だった。
バレーボール部を足のケガで辞めてから、現在は文芸部に入部している。だが文芸部は、集中したいから男女交際が出来ない、という程のものでもないだろう。活動量的に。同じ言い訳は使えない。
視線を泳がせて別のを考えてみたけれど、すぐに納得させられるような理由は思いつけなくて、仕方なく本心を言うハメになった。
「今はそういうの、考えられない」
「どうして?」
「………」
それを聞かれたくないから、本音は言いたくなかったのだ。
答えられなくて黙り込むと、重ねて問われる。
「……瀬野くん、好きなひと、いるの?」
好きなひと?それは。
「……。とにかく誰とも付き合う気はないんだ。ごめんな、もう戻るよ」
精神的に回避できなかったため、物理的に逃避するしかなかった。
「ありがとう」
それでもなんとか笑顔を作って、立ち去る前に微笑みを向ける。それは、できるだけ彼女が傷つかなければいいと思うからだ。
「……っ」
声を詰まらせて、赤くなった顔を俯かせた彼女の姿が視界に入って、さらに心を重くした。
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