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高田という四十代の女性担任教師が、教壇の真ん中で、他校の制服を着た男子生徒の紹介を始めた。
「転校生を紹介します。今日からこのクラスに転入することになった、春名周平くんです。分からないことが沢山あると思うので、みんなで教えてあげてね。――春名くん、自己紹介してくれるかな」
「春名周平です。よろしく!」
春名周平という男子生徒は、仕草や表情がわかりやすく、人懐っこい印象の、いい意味で隙があるタイプの人物だった。
今もちょっと緊張ぎみなのを隠せていないが、基本的に笑顔で明るい雰囲気なので、なんとなく親しみを感じさせる。
「席はそこ、座ってね。――まだ教科書が来てないから、隣のひと見せてあげて」
高田先生の指し示した席は相馬の隣だったため、相馬が春名周平に声をかける。
「相馬です――よろしくな、春名くん。教科書でもなんでも、困った事があったら言ってくれたまえ」
面倒見のいい相馬が、なかなか気前の良い発言をしている。語尾がちょっとおかしいが、春名は細かいことは気にしないタイプらしい。感激して照れくさそうに笑いながらお礼を言う。
「わー、ありがとう!よろしくねっ。春名って言いにくかったら、周平って呼んで」
ささやかな好奇心で、瀬野は後ろを振り返って目で追っていたので、視線を上げた春名と、ばっちり目が合ってしまった。春名はニコッと先に笑顔を作って言う。
「どーも!これからよろしくね」
「瀬野です。よろしくな」
感じのいいやつだなと思いながら、笑顔で挨拶を返したため、春名の突然な表情の変化についていけなかった。
瀬野の名前を聞くなり、驚愕し、目が見開かれる。ほぼ無意識の行動と思われる動きで、机上からわずかに持ち上がった春名の右手が、瀬野を指差した。
「瀬野……?瀬野、史…秋?」
「……え?」
春名の顔は、幽霊でも見たかのように、瀬野を凝視したまま凍りついている。だが、瀬野には驚かれる心当たりがなかった。それに。
(……今、下の名前言った?)
何故、来たばかりの転校生が自分の名前を知っているのだろう?
そのやりとりを見ていた相馬が、瀬野に確かめる。
「……知り合いか?」
「……いや」
二人の様子をよそに、春名はさらに謎めいた呟きをもらした。
「本当にいたんだ…」
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