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「あ……」
はっと我に返った春名は、すぐに自分がとても不審な言動をしていたことに気づいて、慌てて謝る。
「ご、ごごめんっ!ち、違うんだ、これには理由があるんだ。…その、説明が難しいし、信じてもらえるかわからないけど…」
両の手の平を瀬野に向けて、ぶんぶんと勢いよく左右に振りながら必死に『違う違う』と釈明する。
焦りまくって謝る春名がなんとも無害そうで、瀬野は気勢をそがれた。
とりあえず落ち着いて話を聞こうと、「理由ってなに?」と問おうとしたところで、春名の方からノリが良くて派手な感じの着メロが響き始める。
「おっ」と急いでスマホを取り出して確認した春名は、瀬野に視線を移した。
「どうぞ」
スマホを左耳を当てた春名は、顔の前に右手を立てて頭をぺこぺこ下げつつ、ゼスチャーで『ごめん』と伝えながら電話に出る。
あまり電話している様子を伺うのもな、と瀬野は視線を逸らすことにした。
ところが突然、
「麻里、……お前学校は?来ちゃったって何いぃ?」
という春名の大きい声が教室に響き渡る。
ちなみに朝のホームルームはとっくに終わって、一限目までの短い休み時間になっている。電話をしながら、ガタッと春名が席を立ち上がった。
「今どこいるんだ?――文芸部?!」
なに?と思った瞬間に今度は相馬の方から、スマホの着信音が鳴り出した。
「はい」
相馬が、電話に出る。しばらく相手の話を聞いていたが、
「ああ、わかったよ。すぐに春名を連れていく」
と言って、スマホを切った。
相馬は落ち着いたまま立ち上がると、
「どうやら、場所を変えた方がよさそうだ。春名くん、妹さんは文芸部で部長の押井柚香と一緒にいるから心配いらない。今から部室に案内するよ。——瀬野も一緒に行こう」
こうして、瀬野は何がなんだかわからないまま、三人で文芸部の部室に移動することになったのだった。
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