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「やあやあ、おはよう。そこにいるのは隣のクラスの林くんじゃないか」
「そしてこっちは、運命に導かれて我輩の後ろの席になった、わが友、瀬野史秋」
予定外に現れた人物は、林と瀬野に一人ずつ、なぜかご機嫌な挨拶を繰り出してきた。
「導かれてねーよ。相馬は関係ないだろーが。急に出てくんな」
二年になってから、名前の順という席並びのせいで、この相馬燈と強制的に前後の席になった瀬野は、やや耐性があるためツッコミ返しをする。
林悠生は場違いに友好的な態度を受け止め損ねて、面食らった顔をしていた。
「……誰?」
「相馬です。よろしく。話は聞かせてもらったよ」
「いやいや、勝手に聞いてんなよ」
「真実はすでに我輩の手の中にある。大丈夫だよ、林くん。この件はキミが瀬野に失望する必要は、全然ない。我輩にはみんなわかっているんだ」
急に両肩に手を乗せて、曇りのない笑顔でそう言い聞かされた林は、話しの予想外の方向転換に理解が追いつかないようだ。
さすがの瀬野も、この意味不明の発言には言葉が続かなかった。
「…………?」
「…………」
「なぜなら、我輩の優れた推理力がすべてを見抜いてしまったからな」
相馬は眼鏡にかかる前髪を優雅にかき上げる。
「我輩の推理眼から隠し通せる真実など存在しない。ふっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
鳴り始めた予鈴が、林をとりあえず我に返らせた。
「………なんだかよくわかんないけど」
「オレは納得できない。また話に来るから」
林はくるりと背を向けて、立ち去った。その背中を見送った瀬野は、隣の不審人物にポツリと問う。
「………で、何がわかってんの?」
「もちろん、キミのすべてさ!マイワトソン!」
相馬燈は、満面の笑顔で即答した。
「…………キモっ。なんで俺がワトソンなんだよ」
「決まってる!なぜなら、我輩がホームズに比肩する名探偵で」
びしっと相馬が瀬野を指差す。
「キミと我輩は、心の友と書いて心友だからだ!」
「いや、そういう設定いらねーし………んじゃ、教室戻るわ」
「………ワトソン、何も心配はいらない。事件は我輩が解決しよう」
どこか真剣味を帯びた声に、瀬野が振り返る。相馬は視線を合わせると、余裕のある笑顔を見せた。
何をどこまでわかっているのか。此奴は。――とにかく。
「余計なことすんなよ。相馬」
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