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「……悠生と近くの整骨院に行った時は、医者がヤブだったのかロクにレントゲンも見ないで捻挫だって言われた」
「でもどんどん痛みがひどくなって、他の病院に診てもらったら、腱が損傷してるって。何とか大会終わるまではって思ったが、そこまで無理できるレベルじゃなかった」
「だけど最初に誤診されたのもあって、隠せると思ったんだろう?林くんに」
相馬は穏やかに微笑んでいる。
「瀬野が、『すぐに辞めたら林くんが気づくかもしれない』って、ケガのこと隠して無理やり部活続けてて、すごく心配したって宮市先輩が言ってたよ」
「――あいつすごくバレー大好きな、バレーボール少年で。オレは入学した時、中学からやってたあいつに誘われて部活入ったんだ。始めはたいして乗り気じゃなかったんだけど、あいつと一緒にやってるの、ホント楽しくてさ」
「でも、悠生ん家、母子家庭で。妹もいるし、部活は二年生までにして、後はバイトと就活するって。———あと少しの間くらい、好きに部活やらせてやりたくてさ。オレがケガが原因で辞めたなんて事になったら、クソ真面目な奴だから、絶対ヘンに責任感じまくるに決まってんだ」
「だけど、嘘のつけないワトソン君は、退部理由を『辞めたくなった』の一点張りで押し通そうとして、林君や部員達と溝を作るところだったワケだ」
相馬が少し息をついた。
「瀬野が林くんのためを思って頭が一杯だったのはわかるが、一緒に頑張ってきた信頼関係を一方的に裏切られたと思ったら、林くんも部活仲間も別の意味で傷つくし怒るだろう」
「瀬野が1人で背負ったら、それでうまくいくわけじゃない。さっきの話も宮市部長に膝の故障で話を合わせてもらうように頼んだら、『あいつが1人で悪者にならなくて良かった』って、喜んで引き受けてくれたよ」
「……そっか。そうだな。――ありがとうな、相馬」
なんだか、相馬には敵わない。そう思うことは何故か不快ではなく、口角が微か上がると、喜びに似た何かが湧きあがってくるのを感じた。
「――一件落着ね。はい、じゃあこれ」
言いながら、ずいっと柚香が、瀬野に紙を差し出す。
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