22人が本棚に入れています
本棚に追加
「何コレ?」
「もちろん、入部届けよ。燈から、瀬野くんが入るって聞いてるわよ」
「は?―――えっオレが?入部ってなんの部活だよ」
「実は文芸同好会が部活に昇格するために、あと1人必要なのだ」
ピッと相馬が人差し指を立てる。
「我輩と一緒に文芸部に入ろう。そして、気が向いたら吾輩のシャーロックホームズのような素晴らしい事件の解決を、ぜひワトソンの如く書き記してくれたまえ」
「………………………」
まさかこういう企みがあったとは。心の中で呟いた瀬野だったが、それも悪くない気がした。もうバレー部は辞めたのだし、一人で時間を持て余すよりはきっといいだろう。
「ま、いいけど。ちょうど暇になったところだし」
「やったー。ついに部活に昇格よ。部費が出たら、次はもっと大きいビーカーが欲しいわね」
柚香が拍手して喜ぶ。
「いやいや、ふつーにポットかケトル買えよ。だいたい何で実験道具でコーヒー沸かしてんだよ」
「趣味よ、単に。実験道具好きなのよね。ワクワクするじゃない」
「ワクワクはしねえ。何で文芸部の部長やってるんだよ」
「燈が推理小説好きだからしょうがないわね」
薄々感じていたが押井柚香は、割とはっきりした表裏のない性格の女子らしい。これはこれで付き合いやすいだろう。
「というか、ビーカーもケトルも珈琲自体が、文芸部の必要アイテムではない気はするが。まあ細かいことは置いておいて」
ぽんっと瀬野の背を叩くと、相馬が宣言した。
「ではマイワトソン、これからカラオケで歓迎会といこうじゃないか!」
「勝手にワトソン認定してんなっ」
「行くわよー!」
無駄に元気な押井柚香が、片手でガッツポーズをしている。美少女キャラ崩壊してないか。…どうでもいいけど。
「ハイハイ」
鞄を背負い直すと、二人に続いて部室を出る。
……そんな気まぐれよりも軽い気持ちで始まったワトソン生活だったが、本当に事件に巻き込まれることになるなんて、この時は誰も思ってもいなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!