無垢の嘶き

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 森というものは、豊かであり冷ややかでもある。  僕らに恵みを分け与えてくれる一方、その入り組んだ深さで僕らの意識を、心を貪る。  森の中は断絶された世界だ。右も左も緑の緑。もう身につけている外套の緑すら嫌になってきた。  代わり映えのしない風景に心がすり減るが、それでも僕はただ進み続けなければならない。不安で腹は満たされない。  栄養摂取と唾液の分泌促進のため、途中で見つけた山菜をかじる。これは生食が可能なのだ。  土の香りを軽く肺に送り、ムーンストーンのネックレスを握る。わずかな魔力を込めると、指の隙間から乳白色の光が漏れ出した。手を開くと、宙に赤・青・黄・橙の小さな光球が浮かぶ。今向いている方角は橙、つまり西だ。やはり合っている、大丈夫。  日没までにここを抜けたいが、少し厳しいかもしれない。草と木漏れ日の斑模様を見つめ、僕は鼻息をついた。森は慣れているし食べ物も多いが、危険も多い。いっそのこと、今日はもう見切りを付けて、今から安全な寝床の確保に取りかかるべきだろうか。
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