無垢の嘶き

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「ん?」  木と木の間をくぐり抜けて、ごくわずかだが何かの匂いが流れてきた。魔法使いは五感が敏感なのだ。  北の方角からだ。寄り道になってしまうが、まあいいだろう。旅人たるもの好奇心には忠実でありたい。  匂いの方角へと進んでいくと、川が近いらしく、わずかな水音が聞こえてきた。川があるということは、人が住んでいる可能性も高くなってくる。 「おっ!」  その先に柵を見つけ、僕は相好(そうごう)を崩す。  とはいえ、油断はできない。旅人は様々な情報をもたらすため歓迎されやすいが、そうでない時だってある。僕はあくまでもよそ者である、ということを忘れてはならない。  こんな森の中の集落は、外部の者に対して敏感かもしれない。危険性を考えると、謎の集落なんて関わらないのが一番だ。  それでも僕は行く。未知のものがそこにある限り。 「ごめんください」  にっこりと笑顔を作り、僕は入り口へと向かっていった。
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