命さえも

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 私にとって、生きることは残酷で苦しいことです。どうしてこんなにも苦しいのか、ずっと考えていました。  この世の本質は椅子取り遊戯です。いかに相手を踏みつけ押しのけるか、それが肝要なのです。  人は自分の幸せを掴み、相手に幸せを掴ませないことに精一杯です。相手に傷つけられまいと、先に相手を傷つけることを考えなければなりません。人々は次第に、足元に積み上げてきた屍の数を誇りに思うようになっていくのでした。  世界が嫌いでした。人が嫌いでした。生きていけばいくほどに、嫌いなものが増えていきました。感情が薄れ、言葉が減っていきました。空気を体内に取り入れるだけで、煤が溜まっていくようです。  私は孤独を追いかけました。誰もいない場所へ足を運びました。人間の音がしない静かな場所では、少しだけ心の揺れが穏やかになるのです。それでも所詮は玉響(たまゆら)の平穏。ずっとそこにいることはできません。やがてまた恐ろしい世界へと戻らなければならないのでした。
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