命さえも

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 美しい心というものは、本当に必要なのでしょうか。  子供の頃から私たちは道徳というものを教えられます。自分がされて嫌なことは人にしてはいけない。他人に親切にしましょう。相手の立場にたって考えましょう。  でも、世界の仕組みは、そんなものを考えない人ほど生き残れるようになっています。自己犠牲よりも自己愛が生きていく上で大切なのです。それならば、利己的な生き方の重要性を説くべきてはないのか。私はそう思いました。この世界に存在するためには、人間は利己的な生き方をするべきなのです。  そして、私にはどうしてもそれができませんでした。重力から逃れることはできないように、心が何かに縛られているのです。  いつも誰かを優先してしまい、相手のことを思いやってしまいます。共感能力もまた、自分が生きていく上では不必要なもの。私にとっては呪いでした。  いくつも針が刺さったまま、私は生き続けました。生きるたびに傷口が広がり、そこに新たな針が刺さりました。血の代わりに感情を宿した涙が流れ、私は憔悴していきました。
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