命さえも

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 生きるということが何なのか分からないまま、私は耳殻に響く心臓の音を聞き続けました。どうして生きなくてはならないのか、どうして死んではならないのか。毎日もがき苦しみ噎び泣き、部屋の中で四角い世界を眺めました。  何事も、限度というものがあります。息を止めれば苦しくなり、走り続ければ疲れます。それらを超過して継続していくと、やがて命が壊れます。  心も同じことです。傷つくのには限界があります。身体に刺さっていたものは、ついに私の心を壊してしまいました。  膨大な負荷に頭はぼんやりします。自分が歩いているのが他人事のようです。自分の命が心の底から「どうでもいい」と思えました。  駅のホームで、私はピントの合わなくなった目で駅名標を見つめていました。  電車が通過するというアナウンスが流れます。  ホームの端に立ち、私は暗闇を眺めました。  この時、本当に今なら死ねるなと思いました。  ここから飛び降りたらどうなるのだろう。そんなことを考えても、いつもなら踏み留まれる分水嶺。その時の私はそれを越えていました。本気で自分の命を捨ててしまえたのです。  死というものに恐怖を感じませんでした。疲れて布団に倒れ込んでしまうように、ふらりと死ぬことができました。  電車の音がすぐそこに迫っています。最後に私はぼんやりと考えていました。  ああ、どうして私は生まれてきたのだろう、と。
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