命さえも

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 それから、あなたと時を重ね、私の精神状態も少しずつ改善されていきました。  人が嫌いなはずなのに、あなたといると私は奇妙な安心感を覚えました。何となく、この人は私と同種の人間なのだろうな、と思いました。そのような話をしたことはないのですが、きっとあなたも針を感じられるのでしょう。纏っている空気が私と似ていました。  人と話すのが楽しい、ただそれだけで世界が変わります。あれほど嫌っていた明日が待ち遠しく感じるのも、電車に乗るのが嬉しいのも、以前の私には想像もできないことでした。  よく、ふたりで静かなカフェに行きました。綺麗な水を使用していて、水出し珈琲がおいしいお店でした。そこで何でもない話をするのが、とても楽しいのでした。  春になったある日、オレンジ色の花が並ぶ花壇の側で私は聞きました。何故、あの時私を助けてくれたのですか、と。  あなたは言いました。  とても悩んだけれど、やっぱり死んでほしくなかったから。傷ついている人に「生きて」と言うのは、傲慢なのではないかと思う。結局それは自己満足であって、その人の苦しみを取り除いてやれる訳ではない。ただ苦痛を延期しただけに過ぎないのかもしれない。  それでも、君が自分の命を大事にできなくなってしまったのなら、せめて僕は君の命を大事にしたかった。  その時、ふわりと風が吹きました。  花壇の花が揺れ、髪が流れます。  香しい春の陽気が、心に何かを咲かせました。  気が付けば、私はその言葉を口にしていました。  あなたは目を丸くして、優しい笑みを浮かべて、  そっと、私の手を取ってくれました。
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