命さえも

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 信じられない多幸感に包まれながら、私は日々を過ごしていました。  胸の内が羽根のように軽く、希望に満ち溢れているのです。鼻を通っていく空気が爽快で、希望の音色が頭の中で鳴り響いているのでした。  孤独は心の流失を抑えることはできますが、満たすことはできません。人は、誰かと心を補い合わなければならないのだと知りました。  ある日、あなたは見せたいものがあると言い、私をとある場所に連れていきました。  車に乗って一時間、ようやくその草原は見えてきました。その中を進んでいくと、何やら赤いものが見えてきます。プチトマトのような、ホオズキのような。このような実(花?)は見たことがありませんでした。  これは風船花(フウセンカ)だよ、とあなたは教えてくれました。ここにしか咲かない不思議な花。袋状の花弁の中には種が入っており、代謝によって生じたガスを内部に蓄え、いつか風船のように飛んでいくのだと。  私は冗談だと思ったのですが、しばらくしてから言葉を失いました。  ひとつの花が、本当に飛んだのです。  小さな赤い玉が茎から外れ、遠い空へと旅立ちました。少しすると、他の花もぷつりぷつりと飛んでゆきます。  まるでランタン祭りを見ているようでした。真っ青な空に高く高く飛んでゆく風船花は、見る者の心を清々しくさせてくれます。何故か、幼い頃の憧憬が頭に浮かびました。それは本当に素敵な光景でした。  この花はね、春にしか咲かないんだよ。こうやって遠くに飛んでいって、やがて割れてしまう。儚いものだ。でも、そこから種が現れ、別の場所で新たな命となる。もしかしたら、僕たちが想像もつかないくらい、遠い場所で花を咲かすかもしれない。すごいことだと思わない?  あなたが何故、私にここを教えてくれたのか。  きっと、命の美しさを私に伝えたかったのでしょう。  しかし、私は別の答えを見つけ、ただ風に吹かれていました。  揺れるあなたの髪が、睫が、鼻梁が、口元が、愛おしくてたまりません。  ずっと苦しみ抜いてきた答えが、そこにあったのです。  ああ、私はこの人を愛するために生まれてきたのだな、と。
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