呪文のように

「あなたにしかできないのよ。」
「こんなこと、佐藤さんにしか頼めないよ。」
「櫻子にしかできないから、櫻子に頼んでるのよ。」

何度も一方的にぶつけられた言葉はわたしの心に深く刺さっている。そして、じんわりと毒を広げている。
苦しい。痛い。辛い。
周りが求めているのは、わたしじゃない。なんでも言うことを聞くロボットだ。
反抗はできない。いや、できないんじゃない。しないだけだ。反抗は、しない。
みんなが求めているものは、反抗するロボットじゃない。笑顔でへつらって、言うことを全肯定するロボットだ。
反抗なんてしたら、わたしはもう求められなくなる。みんなに必要とされなくなる。そんなの、嫌だ。考えたくない。
感情は捨てようとしている。なにも思うことなく、本当にロボットになろうとしている。
これは、たしかに、わたしにしかできないことだ。
呪文のようにまとわりついて離れないその言葉は、わたしがわたしでいるために必ずいるものでもある。

「佐藤さん。宿題やってきてくれた？」
「はい。」
「あ、そうだ。今日、掃除当番なんだ。･･････言わなくても、分かるよね？」
「はい。代わりに掃除しておきます。」
「先生になんか言われたら、なんて言うんだっけ？」
「わたしがやりたい、と言いました。」
「うん、正解。出来る子だね、ロボットちゃん。」

なんと言われようと、わたしは何も返さない。
わたしにできることは、笑って頷くだけ。悲しみも怒りももうない。
ただ、漠然としたモヤモヤが、苦しみが、心の奥底にある。けど、それが表に出ることはない。
ロボットみたいに笑う。大丈夫。いつもと変わらない。
ずっとこのままでいい。ずっと変わらないままで。
今日もわたしは、わたしにしかできないことを全うする。