優しい奥様

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 今日の健診パートの面子は、私を含む「若手」3名とお姉様4名。  加藤さんはお子さんが小学校2年生。  三宅さんは大学生と高校生のお子さんがいる。  佐々木さんは、定年後の旦那さんが家事をしてくれるとサラリと言うオシャレなお姉様。  山田さんは娘夫婦と同居しておられるチャキチャキの下町っ子お姉様。  猪又さんは家庭菜園が趣味のおっとりしたお姉様で、時々収穫したお野菜を差し入れしてくださる。  末吉さんはジム通いが趣味の開業医の奥様。  昼食を食べ終えて、それぞれが持参したお菓子を配った後、最近三宅さんが始めたという睫毛美容液の効果について話が盛り上がる。 「あらぁ、それかと思ったわ」  山田さんが三宅さんの顔を覗き込んだ。 「効果あるのねぇ。ま、私みたいなババアに効果あるかどうかは分からないけどねっ」 「さあどうだか? やってみればいいんじゃないの?」  佐々木さんがニヤニヤしながら山田さんを(つつ)いた。  あらっ、と目を見開いた山田さん。 「じゃ、ゴールデンウイークの間、せっせと塗ってみようかしらね。次会うとき、ラクダみたいになってるかもよ」 「そんなバサバサ睫毛になったら、目ぇ開いてるんだかどうだか分からないわよ」  すかさず真顔で突っ込みを入れた末吉さんに、その場にいた全員が吹き出した。  吹き出したものの、決まり悪そうに辺りを見回していた一番若輩の加藤さんが、ゴールデンウイークかぁと小さく呟いた。 「旦那の実家に行くことになりそうなんですけど、……気が重いんですよねぇ」 「あれ? 姑と仲悪いんかい?」  山田さんが心配そうに声を掛けると、いえいえ、と否定する加藤さん。 「むしろその逆で、いい距離感を保って付き合ってくださる良いお姑さんなんですけどね、だからこそ、怖いっていうか……」 「あら、何? ちょっと話してごらんなさいよ」  佐々木さんが身を乗り出した。  その場にいる皆、加藤さんの次の言葉を待つ。 「多分、ここにいる皆さんなら、私の感じる怖さが解っていただけると思うんですがね……」  加藤さんは溜息まじりに話し始めた。
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