優しい奥様

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 加藤さんの実家は隣県。まだ両親とも働いていて、祝日は自分たちが休みたいからと帰省に良い顔をしない。  加藤さんの旦那さん方実家は同じ都道府県内。お舅さんは退職しているし、お姑さんはパート勤務だが融通が利く。そんなわけで、連休は旦那さん方実家に行くことが多いのだそうだ。  お舅さんは、モーレツ社員の世代。バリバリ働いて家族を養うのが甲斐性という風潮の中で生きてきた人で、姑さんはそれを支えて家庭を切り盛りするという「ザ・昭和」なご夫婦。「昭和の夫婦」というと夫唱婦随なイメージでいたけれど、さにあらず、対等に話せる仲の良い夫婦に見えたのだという。  加藤さんが、あれ? と思ったのは、お舅さんが退職してから半年後の帰省の時。 「お舅さん、喫煙者なんです。ショートピースが好きで、いつもプカプカやってる人なんです。ちょっと前まで、お姑さん、『臭いし孫に嫌われるよ』って口うるさく言ってたのに、……言わなくなってたんですよね」 「単に、禁煙してくれないから諦めたんじゃないの?」  私が言うと、加藤さんは顎に手を当てて首を傾げた。 「私も最初はそう思ったんですよ。でも……何か……違うんですよねぇ」 「ほう……」  山田さんが興味深そうに相槌をうつ。  加藤さんは話を続けた。 「お姑さん、お舅さんが外に出なくていい様にってタバコをストックしてるんです。あんなに嫌がってたのに……。オマケに、お舅さんが希望しても首を縦に振らなかった有料チャンネルを契約してたんです」  そこに居た皆、ちょっと怪訝な顔をして互いに顔を見合わせる。 「えと、それって、お舅さんが外に出なくていいようにした上、家に釘付けにする手段を講じたってことでよいのかしら」  三宅さんが恐る恐る言った。  加藤さんは、それを聞いてパチンと手を打った。 「そう! そうなんですよ! 私がそれをやんわりと言ったら、お姑さん『パパはこれまで仕事で大変だったから、退職してお疲れ様の気持ちで我儘を聞いてあげてるのよ』ってニコニコしながら言うんです。で、お姑さん自身はパートに出たり友達と旅行に出かけたりして自由に過ごしてるんですよ」 「それは、……見限ったのでは」  それまで黙って話を聞いていた猪又さんが、ぼそりと呟いた。
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