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「殿下の心移りもしかたないですわよね。救国の聖女を迫害する令嬢なんて、婚約者にしておきたくないでしょうから」
「同感です。あぁ……何度思い出しても、すばらしい婚約破棄でしたわ」
王立学院の渡り廊下。
向こう側から歩いてきた女生徒たちは、アマリアに気づくと意味ありげな視線を送ってきた。
「現実の世界でも、悪役令嬢は婚約を破棄されればいいのにと思いませんか?」
「えぇ、そうですわね」
すれ違いざま、彼女たちはわざとらしく声量を上げる。
アマリアが視線を向けると「きゃっ」「怖い怖い」と悲鳴を上げて、逃げるように走り去った。
彼女たちの姿が見えなくなったところで、アマリアは空を見上げる。
(悪役令嬢。今、巷で流行っているという歌劇の登場人物でしょうね)
雲ひとつない快晴だ。
澄み渡る青。
心中とは真逆の爽快さに、深く溜め息を吐き出した。
アマリア・フォンターナ。
美しく豊かな金髪と淡い紫色の瞳を持つ彼女は、子爵家の令嬢である。
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