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向かい合ったルーカの眉間には深い皺が刻まれていた。
表情が豊かなではない彼もよほど激昂しているのだろうとアマリアは受け止め、何度目かの覚悟を決める。
「話は聞こえていた。今こそはっきりさせておかねばならないな」
アマリアは今にも泣き出したくてたまらなかった。なのに、喉はからからに乾いていた。
なんとか声を振り絞る。
「申し訳ございません、ルーカ様。婚約破棄の件については、改めて家を通して……」
「何を言っているんだ?」
ルーカの声には少しだけ苛立ちが含まれていた。
「アマリア嬢。私の顔をちゃんと見てほしい」
「ですが……」
「何度も手紙をしたためただろう? ビオラを見れば君を思い出したし、この国にない菓子は君にも食べてもらいたいと思った。私の気持ちを穏やかにさせてくれるのは、君だけなんだ」
眉間から皺が消え、ルーカは眉尻を下げる。
「君は、離れている間に僕のことを嫌いになってしまったのかい?」
「そんなことは……っ! わたしは、ずっとルーカ様をお慕いしています……」
それならば、とルーカの唇が動いた。
一気に引き寄せられ、アマリアはルーカの胸のなかに収められる。
少し汗の混じった、石けんの香り。
制服の上からとはいえ初めて触れる、たくましくて厚い胸板。
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