婚約を破棄してほしいと願うのに

11/16
前へ
/16ページ
次へ
 だが、胸の鼓動はアマリアと同じ速さでリズムを刻んでいた。速く、どんどん速く。 「私もだ、アマリア」  そしてルーカは己の婚約者にだけ聴こえるように囁いた。  ようやく会えた、会いたくてたまらなかった、と熱を込めて。迸る情がアマリアの耳朶を打ち、頬を真っ赤に染めさせる。  ぱちぱちぱち。  拍手をはじめたのは満面の笑みを浮かべたマルティナだった。  すると拍手はどんどん広がっていき、ほぼ全員がふたりに向けて祝福を贈っていた。    ◆  数日後。 「マルティナ様。改めて、本日はお招きありがとうございます」 「何度も言っているが、かしこまらなくてもいいのだよ?」 「そうは仰いましても……」  アマリアは淡い紫色のドレスを纏って、歌劇場の特別貴賓室にいた。  特別貴賓室へ足を踏み入れるのは当然ながら初めてだったが、観劇用の部屋とは思えないほど豪奢なつくりに目眩を覚えていた。  何故アマリアが場違いな空間にいるのか?  答えは簡単。マルティナの希望で『救国の聖女』を共に鑑賞することになったのだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加