婚約を破棄してほしいと願うのに

15/16
前へ
/16ページ
次へ
 突然丁寧な言葉遣いに戻って、マルティナは片目を瞑ってみせるのだった。    ◆  歌劇が終わり、マルティナは専用の馬車で帰っていった。  アマリアを迎えに来たのはルーカだった。  家が近いというのもあり、ふたりは護衛をつけながらも夜道を歩く。 「マルティナ様は人格者ですね。気品もありながら、気さくで親しみやすくって。おまけに強いだなんて、信じられません」  興奮冷めやらぬまま、アマリアは珍しく饒舌になっていた。 「さっきから、歌劇の内容よりマルティナ様の話ばかりだな」 「す、すみません」  ルーカは苦笑いで返すも、どことなく嬉しそうに見えた。 「ルーカ様?」 「人との交流で楽しそうにしているアマリア嬢は初めて見た。マルティナ様に嫉妬しそうになるが、ほんとうによかった」 「……ご心配をおかけして、すみません」 「そうだな。心配はしていた。何もできないことに歯がゆさも感じていた。だが、君に心強い友人ができたことはとても嬉しい」  どちらからともなく立ち止まり、ふたりは見つめ合う。 「好きだよ、アマリア嬢。私の心を動かすことは、君にしかできない」 「……わたしも同じです。ルーカ様のことが、大好きです」  差し出された手。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加