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覚悟を決め、アマリアは拳を静かに握りしめた。
(婚約破棄の話が出たら、即座に承らなければ)
マルティナがゆっくりと階段を昇ってきた。
嗅いだことのない甘くスパイシーな香りが漂う。
アマリアは唾を飲み込み、深く深く頭を下げた。
「ご挨拶、ありがとうございます。アマリア・フォンターナと申します」
「かしこまらなくてもいいのですよ。わたくしのことは聞いているでしょう? あなたとは、ゆっくりお話をしてみたいと思っていましたの」
「え……?」
「ルーカさんから、いつもあなたのお話を聞いていていました。わたくしにも是非、おすすめの本やお菓子を教えてくださいませんか?」
意味が分からず、アマリアは瞬きを繰り返した。
そのとき、誰かが声を上げた。
「大変! マルティナ様がアマリア様から迫害されていますわ! 我が国の一大事です!」
周りの人間はアマリアとマルティナという組み合わせに違和感を持ったのだろう。
あっという間に上からも下からもふたりは囲まれるかたちになってしまった。
ざわざわと不穏な空気。
アマリアは震える右手を左手で押さえつけた。
(迫害だなんて、そんな)
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