74人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ大丈夫なの?周防病院。あんなのが後継者で」
「お前ねぇ、何のために俺が生まれたと思ってんの?
俺がいるから大丈夫でしょ♪」
そう言ってにこっと微笑む律。
「え?律…医者になるの!?」
「何だよ今さら。お前そんなに俺に興味ない?」
がっかりと言わんばかりに律が悲しい顔をしてみせる。
「だって、なんか似合わねぇ…」
「似合う似合わないの問題じゃないでしょ。周防の男は医者になる定めなのよ~♪」
周防病院は律の祖父の代から続く、この辺りでは割と大きな病院である。
律の父とその弟。つまり律の叔父にあたるのだが、今は世代交代され、この2人が切り盛りをしている。
そして次期院長には当然、律の兄である凌の名前が上がっているのだ。
「…俺、お前はずっとピアノ続けるもんだと思ってたけど?」
「はは ピアノで食ってくの?上には上がいるよ」
円のキラキラとした薄い青紫色の瞳が律をじっと見つめる。
ーーあ。この目…時々こいつの表情が読めないんだよねぇ…
「…俺はお前が医者になっても、絶対かかんねぇからな」
「何でよ?お安くしとくよ~♪」
本当のところ、医者なんて興味はない。
世のため人のため、素晴らしい職業だとは思うが、祖父や父親のように家庭も顧みず朝も晩もなく働くのだ。
そこまで尽くせる魅力は律には感じることができなかった。
しかし、これは生まれる前から定められている運命。
律が"この世に生を受けた理由"でもあるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!