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「もうすぐ期末だなぁ…」
突然、相変わらずゲームを進めている円がつぶやく。
「何よ?テストのこと気にするなんて珍しいじゃん?」
「俺じゃなくて、あいつの」
「あ~春菜さん?赤点取ったらまた追試だもんなぁ♪
そしたら冬休みのデートもできなくなるし?」
ニヤニヤと笑う律を無視して、円が続ける。
「お前は?今回も2位か3位?」
「お?何そのトゲのある言い方」
「別に…いちいち狙ってんのがムカつく」
「狙ってるわけじゃないよ?実力実力♪」
手にしている本に視線を落としながら律はにこにこと笑う。
円はそんな律をソファに仰向けになったまま見上げた。
「ウソつけ。狙わなきゃいつもいつも2位か3位なんてあるかよ」
律は常に本気を出さない。
それは出会った時から変わらない。
何においてもそうだった。
本気を出せば何でも1番を取れる男だ。ただ、律はそれをしない。
勉強も運動も、趣味も遊びも…
全てにおいて律は2番か3番。
そしてその2番か3番を、涼しい顔をして、いつものあの爽やかな笑顔でさらりとやってのける。
「…本気出せばいいじゃん」
円は昔から律のそのスタイルに疑問を感じていた。
本気を出せば何でも手に入る。
しかし恵まれた才能に自分から蓋をして、そこに留まっている。
そんな律が不思議だった。
「…何か、いいことあんの?」
「え?」
「本気出したら、何かいいことある?」
「ん~…」
「1番になっていいことなんて…何もないよ」
律はそれを…身をもって知っていた。
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