私の好きな人

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そっと明かりの漏れるドアの隙間から中を覗く。 五線譜の黒板の前。 教壇から一段下がった場所にグランドピアノがある。 そして、そのグランドピアノに向かう人物…。 ーーり、律くん!? 律の姿だった。 ピアノを奏でる律の姿は夢でも見ているのかと思うほどに美しく、優雅だ。 律の長い指が物悲しい月光を奏でる。 重く重く深い悲しみ、苦しみ… 身分の差に苦しみながらもベートーヴェンがジュリエッタを想い作曲した…悲しい 愛の曲。 そんな悲哀がこの旋律から…いや。旋律を奏でる律の姿から、夜子には痛いほど伝わってくる。 思わず手にしていたカメラを向けていた… 隠し撮りをするつもりなどなかった。 ぼやっとした明かりに照らされ、切な気に愛おし気にピアノを奏でる律の美しさが、夜子にそうさせた。
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