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「隠れんの上手すぎんのも考えもんすねーうっかり寝ちゃったら誰もいなかったみたいな」  ぎゅ、と眉根が寄る。あごの細い、どちらかというと儚げな面立ちなのに、目力が強すぎて圧迫感がスゴイ。 「ええと、おじさんは?」  とにかく自分のことから話をそらしたくて、流は男に矛先を向けた。とたん、眉根の溝が深くなる。あ、失敗したっぽい。 「オレはまだ三十だ」 「あ、すんませーん……」  三十っておっさんだろ。内心で思いながらも口には出さない。出してないよな? 出してないのに、男はさらに不機嫌になっていく。 「どっちがいい?」 「なにがですか?」 「警察かうちか」 「いやいや、お構いなく」 「構うわ。こんな時間にこんな場所にいる未成年、見逃せるわけないだろ」  すごい、まともな大人みたいなこと言ってる。 「おい顔に出てるぞ」  やばい。流はあわてて笑顔を取り繕った。男は、世の不幸を全部背負ったみたいな深い深いため息をつく。 「なんか事件に巻き込まれたとかじゃないんだな?」 「え? あ、はい。たぶん」 「じゃあ家、帰れば?」 「電車なくて」  終電は二十五時だ。始発は五時。  あはは、とごまかし笑うと、男は仏頂面のまま、左の袖から財布を取り出した。 「持っとけ。中身、覚えろ」  ぽいっと投げられたのは、免許証だった。 『尾幌マサキ』  生年月日の下に、カメラに向かってメンチきっているみたいなガラの悪そうな男がうつっている。もうちょっと写真どうにかなんなかったのかな。じっと見つめすぎたのか、男――マサキは小さく舌打ちをした。 「免許センターのカメラってのはそうできてんだよ」  あんたも数年したら分かる、と断言する。 「じゃなくて、なんですかこれ」 「保険」
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