5

6/10
前へ
/85ページ
次へ
 風呂から上がると、スウェットと袋に包まれた下着が置いてあった。流もよく知るファストファッションの下着は、見慣れないプラスチックのパックに包まれている。  制服はハンガーにかけられ、食卓と居間を区切る鴨居につるされていた。下に置かれた扇風機が、申し訳程度にぬるぬると風を送り込んでいる。クーラーで適温に保たれた部屋はそれなりに乾燥していて、この分ならすぐ乾くだろう。  シャツとか靴下は洗ってる、とマサキは湯を沸かしながら言った。何から何まで申し訳なく、流が「家事できんすね」とほめたたえると、嫌な顔をされた。 「自分でやんなかったら誰がやんだよ」 「え? 家族とか、付き合ってる人とか」 「ひとり暮らしだ」  借りたスウェットは、ほんのちょっとだけ大きかった。まくり上げては落ちてくるそれを直しながらマサキを見ると、彼はふいと視線をそらして急須に湯を注ぐ。 「服、ありがとうございました」 「べつに。全部安物だし、下着は買い置いてるやつだから」  淡々と低い声は相変わらず冷たいのに、はい、と渡されたのは熱いほうじ茶だった。ふーと息を吹きかけると、もわっと湯気が立つ。  そろそろすすりながら、大人ってパンツ買い置きするんだ、と思った。衣服は祖母に任せっきりだけど、そろそろ自分で選びたいと思っている。けど、なんて切り出せばいいかわからず、ずるずると現状維持が続いていることを思いだした。ばあちゃん、怒ってるだろうな。家のことを考えると、きゅ、と胃がちぢむ。 「尾幌さん、なんであんなとこいたんです?」 「そりゃこっちのセリフだけど」  ノーバウンドで打ち返されて黙り込む。マサキはしばらく探るような視線を送ってきたけれど、聞かないでほしい、という流の無言の懇願を察してくれたようだった。小さく息をついて、湯飲みを置く。 「オレは散歩してただけだよ」  徘徊じゃなくて?  のどまで出かかった軽口を飲み込んで、流は「健康的ですね」と無難な返事に留めた。 「それより、どうする?」 「はい?」 「始発、たぶん五時には動くと思うけど」  ああ、そうだった。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加