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風呂から上がると、スウェットと袋に包まれた下着が置いてあった。流もよく知るファストファッションの下着は、見慣れないプラスチックのパックに包まれている。
制服はハンガーにかけられ、食卓と居間を区切る鴨居につるされていた。下に置かれた扇風機が、申し訳程度にぬるぬると風を送り込んでいる。クーラーで適温に保たれた部屋はそれなりに乾燥していて、この分ならすぐ乾くだろう。
シャツとか靴下は洗ってる、とマサキは湯を沸かしながら言った。何から何まで申し訳なく、流が「家事できんすね」とほめたたえると、嫌な顔をされた。
「自分でやんなかったら誰がやんだよ」
「え? 家族とか、付き合ってる人とか」
「ひとり暮らしだ」
借りたスウェットは、ほんのちょっとだけ大きかった。まくり上げては落ちてくるそれを直しながらマサキを見ると、彼はふいと視線をそらして急須に湯を注ぐ。
「服、ありがとうございました」
「べつに。全部安物だし、下着は買い置いてるやつだから」
淡々と低い声は相変わらず冷たいのに、はい、と渡されたのは熱いほうじ茶だった。ふーと息を吹きかけると、もわっと湯気が立つ。
そろそろすすりながら、大人ってパンツ買い置きするんだ、と思った。衣服は祖母に任せっきりだけど、そろそろ自分で選びたいと思っている。けど、なんて切り出せばいいかわからず、ずるずると現状維持が続いていることを思いだした。ばあちゃん、怒ってるだろうな。家のことを考えると、きゅ、と胃がちぢむ。
「尾幌さん、なんであんなとこいたんです?」
「そりゃこっちのセリフだけど」
ノーバウンドで打ち返されて黙り込む。マサキはしばらく探るような視線を送ってきたけれど、聞かないでほしい、という流の無言の懇願を察してくれたようだった。小さく息をついて、湯飲みを置く。
「オレは散歩してただけだよ」
徘徊じゃなくて?
のどまで出かかった軽口を飲み込んで、流は「健康的ですね」と無難な返事に留めた。
「それより、どうする?」
「はい?」
「始発、たぶん五時には動くと思うけど」
ああ、そうだった。
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