1.人見知りの後輩

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1.人見知りの後輩

 4月。桜は満開になり、私も高校2年生に進学した。  春というのは出会いと別れの季節だとよく言われているが、本当にそうだ。先月にはお世話になった先輩方が卒業し、今月から新入生が入ってきた。  私は吹奏楽部でオーボエという楽器を担当している。ギネスブックに登録されるほど吹くことが難しい木管楽器であるので、演奏者が圧倒的に少ない。学校によっては奏者がいないところもあり、オーボエ編成の吹奏楽部があると少し興奮する。  新入生の部活動が本格的に開始したのは、桜がすっかり散って緑色の葉が目立つ4月の終盤だった。  音楽室に集められた入部希望者が、楽器紹介の後にそれぞれ希望するパートへ移動する。オーボエの私の元に来てくれたのは、ひとりの男の子だった。 「ようこそ、柴咲(しばさき)高校吹奏楽部オーボエパートへ! 私は2年の垣内美月(かきうちみつき)です。よろしくね」 「どうも。1年の室井瑛太(むろいえいた)です。よろしくです」  私が両手を広げて歓迎の意志を見せているのに対し、彼は無表情で一瞥し小さく頭を下げただけだった。え、なにこの温度差。私、痛い先輩みたいじゃない。  ……そうだ、私、先輩だ。  中学の時、オーボエに先輩はいたが、後輩は入ってこなかった。今、初めて後輩が目の前にいる。そう。今日から私は先輩なのだ。  夏の大会が終わって引退し、大学に進学した2つ上の先輩を思い出す。たった1年しか一緒に演奏できなかったけれど、とても良くしてくれて、すごく可愛がってもらった。同じパートに先輩がいたから、私は頑張れた気がする。だから、私も先輩がしてくれたように室井君に良くしたい。そして一緒にこの柴咲高校吹奏楽部を盛り上げたい!  しかも、吹奏楽部には貴重な男子部員だ。楽器の運搬には是非とも欲しい人材である。  私は引きつりそうになった顔を一瞬だけ無にして、すぐ笑顔を貼り付けた。 「室井君、頑張ろうね!」 「はぁ……」  人見知り、なのかな。  訝しげな表情をする後輩に、私は口角を上げ続けた。
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