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ラジオ体操が終わると次は腹筋20回、背筋5回だ。腹筋は2人1組になって行う。
吹奏楽部は文化部ではあるが、運動部に負けないくらい運動をする。コンクールともなると、12分の間課題曲と自由曲を集中して吹き続けなければならないので、技術だけでなく体力作りも大切なのである。
「室井君。まずは私がやるから、ちゃんと見ててね。後で同じようにやってもらうから」
「はぁ……」
ため息ともとれる返事に、思わず顔が引きつる。返事は「はい」とハッキリ言わないと他の先輩に睨まれるんだけど。吹奏楽部は礼儀にもうるさいのだ。しかし、初日からあまりガミガミ言ってうっとうしいと思われても嫌だな。「思ってたのと違う」と言われて辞められるのも嫌だ。せっかくの後輩、しかも貴重な男子。手放したくない。
「じゃあ、両手で足首押さえてて。いくね」
いーち、にぃ、とあちこちで数を数える声が聞こえる中、私は腹筋を開始した。ひざは立てた状態で、おへそを覗き込むようなイメージでゆっくりと息を吐きながら上半身を起こす。
「…………」
無言で私の足首を掴み、床を見ている室井君。そこに私はいません。
「室井君。数数えてくれる?」
「ああ、はい」
2回目。目線は上がったが、口は動かない。
「声に出して?」
「ああ……」
3回目。ようやく「さん」と小さな声が聞こえた。
……鍛えがいがありそうな新入生である。よん、ご、と続く。
「大事、なのは、息を、吐きながら、ゆっくりと、やる、こと」
本気で腹筋をすれば10回を超えたあたりからしんどくなってくる。
「はい」
「勢い、や、反動、を、つけずに、ゆっくり、と、お腹、を、意識して……」
「はい」
「今、何回目?」
「……5回目? くらいっす」
ふざけんな。
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