プロローグ

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「ねえ、中庭のあそこ。あちらにいらっしゃるのはアリス様ではございませんこと?」 「どちら? あら…、本当だわ」 「お父様から、アリス様はお身体を悪くされているとお聴きしましたけれど…」 「まあ…、そうなの。ならもう外出されても大丈夫なのかしらね。…ねえ、それにしても…」 「ええ、あんなに熱心に噴水を覗き込んで如何されたのかしら…?」 囁き合う令嬢たちの声につられて視線を向ける。 中庭に設けられた噴水を何やら熱心に眺めているひとりの令嬢がいた。 ランカスター公爵家の令嬢、アリスだ。 それとすぐにわかるのは、彼女が見事な金の髪の持ち主だからだ。金髪を持つ人間は他にも確かに存在する。だが、その純金の美しさでランカスター家の人間は群を抜く。 ランカスター公爵家の令嬢といえば、社交界の場で彼女と話す機会を得られれば幸運だと有名だ。社交界デビューを果たし、数多の男の視線を奪っていきながら鮮烈な登場とは裏腹に、彼女は他の令嬢がそうであるような結婚相手を見付けるための振る舞いをしない。貴族の令嬢が普通ならば我慢ならない壁の花となることに甘んじ、代わりに知識層といつも難しい話に花を咲かせている。高度な内容にとてもついていけず、彼女に声を掛けたい男達は皆玉砕して帰っていくのだ。 流石、ランカスター家の令嬢は、今となっては稀少である魔法の使える者として勤勉博識である、と。
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