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「レディアリス」
別な声が投げ掛けられた。
「あぁこちらにいらっしゃいましたか。探しましたよ」
姿を見せたのは銀髪の男だ。曇りのない銀の髪の彼を、男ももちろん誰であるかを知っていた。どうやらお迎えのようだと、男は伸ばしたかけた手を引っ込めた。
だが、次にアリスがした反応は男が思いもよらず驚く。
「フィン…」
今、まずいという表情を浮かべなかったか。
「いつの間にかお姿が見えないので、とても心配しました。さぁ、行きましょう」
「あ、う…」
極めつけは、伸ばされた手を前にして躊躇しているのだ。
この二人の関係は、両者とあまり交流のない男でも知っているほど周知のことだが、まさか迎えの手を取りたくないのだろうか。
ならば助け舟を出した方が良いかと男が思ったところで、唐突に目の前の令嬢の姿がブレた。
「きゃあ」と周りから黄色い悲鳴があがる。
「…ほら、まだ本調子ではないでしょう」
アリスを抱き留めた銀髪の男が囁く。
男の目には彼女の姿が横にブレたように見えたが、立ち眩みか何かで体勢を崩したらしい。あまりにいきなりだったので、男は咄嗟に反応出来なかった。
それにしても、気の所為だろうか。遠巻きにこちらを見ている令嬢たちの黄色い悲鳴に交じって、珍妙な悲鳴が聞こえたような気がした。
…屋敷の飼い猫が木から落ちたかな。
「部屋を用意して頂いて正解でした。貴女の護衛も血相を変えて探し回っています。行きますよ」
「は、はい…」
アリスが小さな声で答える。抱き留められた後、直ぐに身体を離しているのだが、今も石のように固まったままだ。
銀髪の男が男を見て微笑んだ。
「貴方もありがとうございます。後はこのわたしが引き受けますので」
お前はここで手を引くように。
しっかり聞こえた無言の言葉に頷く。
残念だが、ここら辺が引き際だ。
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