言葉を使わない少女

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【言葉】 それは誰もが持っているもの。誰もが使っているもの。かつて、私も使っていたもの。だけど、言葉は刃であると気づいた日から使わなくなった。言葉は、伝えるための手段であると同時に、人を殺せる道具なのだから。 「じゃあ、次の問題をペイシェルさん」 私は無言で立ち上がり、黒板へ向かう。誰も何も言わない。別に指示されたわけでも、この先生はこういうタイプってわけでもない。私が喋らないから。私は。 「はい、正解です」 先生もクラスメイトも何も言わない。この日常に慣れたから。同じ学年で知らない人はもういないだろう。それくらい知れ渡っているのだ。だけど、それを理解してくれる友達はいない。別にそれでもいい。理解してもらおうだなんて思ってないし、面倒なだけ。 私は、一生このままなのだろう。悟り・・・いや諦めだな。私ももう慣れたから別に何も思わない。お父さんもお母さんもわかってくれている。それだけでいい。 7歳くらいの時だったと思う。私が言葉を使わなくなったのは。最初はただの違和感だった。みんな私の言うことは聞いてくれたなぁとか、晴れればいいなぁとか、ポロッとこぼした事が本当になったりとか、本当に些細な違和感。 それが異常なことなんだって気づいたのは、ある日、クラスメイトと喧嘩した時だった。きっかけは思い出せないけど、その喧嘩の中で言ってしまったのだ。『』って。そしたらその子、本当にいなくなってしまったのだ。普段なら絶対にありえないこと。 警察も動き出して本格的な捜査が始まった。もちろん、学校にも警察が来て、喧嘩した私も事情聴取を受けた。だけど、進展は何もなく三日が経った。私のせいだって思った。私がいなくなっちゃえばいいなんて言ったから。怖かった。あの子に何かあったら私はどう償えばいいのだろうと。その日の夜、私は泣きながら願った。『』と。そしたら次の日、その子は何事もなかったように学校に登校してきた。 みんなびっくりしたけど、私が一番びっくりしていた。その子は特に異常もなく元気だった。だけど、いなくなってた三日間の事は何も覚えていなかった。でも、そんなことより、私は自分の言葉に驚いていた。私が言えばその通りになるのかと思った。 その日の放課後、誰もいないところで試してみた。最初は、雨が降って欲しいと言った。そしたら快晴だった空がだんだん曇り空へと変わり雨が降り出した。でも、もしかしたら偶然なのかもしれない。だったら絶対にないことを言ってみた。その時期はまだ真夏で、雪など絶対に降らない季節。だから言った。雪が降って欲しいと。
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