言葉を使わない少女

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そしたら、気温がだんだん下がり、急激に冷え出した。まるで真冬のような寒さに変わった。雨は次第に(みぞれ)っぽくなり、雪が降り出した。確信した。言葉(これ)のせいだと。私が使えば何か起きてしまうのだと。その日の夜、両親には、学校を変えたいと伝えた。操っているようで申し訳なかったけど、言葉を使った。反対されずに私は転校した。 それ以降、言葉を使わなかった。使いたくなかった。原因はわからない。私は魔力持ちじゃないから。生まれてすぐに行われる魔力測定で、私は魔力なしと言われている。魔力がないものが魔法を使えるわけもなく、そもそもこんな魔法聞いたこともない。 魔法学院に通っていなくても、魔法の基礎知識だけは勉強する。それほどまでに魔法という奇跡はその世界に浸透しているのだ。この世界の平和を守るのは主に魔法士。犯罪を起こすのが魔法を使えるものだったり、人外が多いから。 人外、“エラント”はこの世界とそっくりな裏の世界の住人である。本来であれば出てくることができないが、たまに穴が空いてしまうらしい。その穴を魔法士達はホールと呼んでいる。なぜホールが開くのかは未だに不明とのこと。エラント自身が開けられるものではないというのが魔法士達の見解のようだ。 だけどそんな話、魔力を持たない一般市民には無縁のことで、まるで本の物語を聞いているかのような感覚だ。なぜなら、私たち一般市民は、安全区域で生活しているから。だからエラントの被害を受ける事はほぼない。‘ほぼ’というのは、一応そういう被害が安全区域内でも出ているからだ。だけど、それはごく僅かで遭ったことでもなければ実感が沸くはずもない。 「じゃあ、今日はここまで」 「「「ありがとうございました」」」 今日、最後の授業が終わり、各々帰宅準備をする。特に部活にも入っていない私は帰るだけだ。こんな毎日をずっと過ごしてる。私は多分一生人と話す事はないだろう。話さない私は、将来どんな職につけるんだろう。親に迷惑はかけたくないので、何か職には就きたい。だけど、喋らない職業なんてあるのだろうか。 そんな未確定な将来へ想いを馳せていたらいつのまにか家に着いていた。この時間はまだ両親は帰っていない。家の鍵を取り出してドアを開けた。 「コトハー!!!おかえりー!」 ドアを開けるや否や、真っ白いものが飛んできた。それに私はにっこりと微笑む。ただいまという意味を込めて。
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