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クロが経営する「芥屋」は、その名の通りガラクタしか扱っていない。
どうやらかつて廃屋だった建物を使いまわしているようで、クロの代から始めたというのに、店の外観はいっそ憐れになるほどボロボロだ。
傾いた看板。色あせた暖簾。入口にはひょうきんな顔をした狸の設樂焼と、黒い招き猫の置物。設樂焼の方はともかく、招き猫の方はどす黒すぎるせいか妙な威圧感がある。客が入ってこないのはこの招き猫のせいなのではないかと勘繰ってしまうほどだ。
そんなだから当然客なんて来なくて、店の手伝いを始めてから数日経っても、僕は一度も接客をしたことがなかった。
「……今更だけど、これ、僕が手伝う意味あるのかな」
あまりに閑古鳥が鳴いているので、僕はついそんなことを漏らしてしまう。この数日で僕がした仕事といえば、精々商品の埃を払うくらいで、後はひたすら暇な時間を過ごしていた。
「人と物の出会いは一期一会。運命のようなものなんだよ、シロさん。だから僕達が焦っても仕方のないことなんだ。そのときが来ないときは来ないし、来るときには来るんだから、気長に待つことだよ」
クロはそう言うけれど、正直なところ、この店に客がやってくるとは思えなかった。一体誰が好き好んでいわくつきのガラクタなんて買うのだろう。
げんなりとした気持ちで店内を見渡した僕は、僕の前住居から回収した女の人形がちゃっかり飾られているのを見て、さらに辟易してしまう。
「雨だ」
人形から目を逸らしていると、読書をしていたクロが不意に顔を上げた。つられて外を見やれば、彼の言う通り玄関の磨りガラスに水滴がつき始めていることに気付く。
初めは小雨だったそれは、やがてさあさあと音が響き渡るほどの本降りに移り変わった。予報では一日晴れのはずだったのにと不思議に思っていた僕は、磨りガラス越しに人のシルエットが映りこんだのを見て驚く。
「どうやら、お客さんみたいだね」
クロの呟きを肯定するように、ゆっくりと戸が引かれる。初めての客だと慌てて気を引き締めた僕は、しかし露わになった客の姿に凍り付いた。
全身ずぶ濡れのその女は、長い黒髪を垂らして、不自然なほど首を折り曲げていたのだった。
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