プロローグ・花降る雨

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 雨の日、その傘を差すと空から花が降ってくる。  種類も時期もバラバラ、だが決まって赤い花ばかり。頭上で開いた傘と同じ色をしたものが、雨に交じって落ちてくるのだ。  赤い花は空中で徐々に枯れていき、雨水をたっぷりと吸い込んで傘の上に降り注ぐ。ボトボトと響く重たい音は耳障りで、地面もぐちゃぐちゃになった花まみれで汚いが、青年はこの時間が嫌いなわけではなかった。  青年は赤い傘を携えて、家の近くにあるバス停へと足を運ぶ。とうの昔に廃線になったそこで、花が降り注ぐ中、来るはずのないバスを待ち続けている。それが雨の日にする青年の日課だった。  どこかで雨蛙が鳴いている。花が傘を叩く音と重なり合って少しうるさい。息を吸い込めば湿った臭いが肺一杯に充満して憂鬱な気分になった。  なにも起こらないまま、時間だけが無駄に過ぎていく。そのうち雨も小やみになって、太陽が顔を覗かせ始めた。  まただめだったかと溜息をつき、青年は雲が引いていく空を睨みつける。  あわいのバスは、今日もやってこなかった。
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