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「こ……これって……」
動揺を押し殺して尋ねれば、女の子は愛おしそうにオルゴールを撫でる。
「春告鳥、という名前の作品なんだそうです。でも壊れているのか音程が外れていて、酷い音しかしないものだから、誰も買う人が居ないんだって店主さんは言ってました。でもなんだかとても可愛く思えてしまって、つい買っちゃったんです」
そうしたら不思議なことがあったんです、と女の子は微笑んだ。
「最近になって、オルゴールの音が綺麗になったんです。まるで歌が上手くなったみたいに」
僕は思わず鳥籠の中のウグイスを凝視してしまう。クロが鳥の囀りではなくなにかのメロディを教えていたのがずっと不思議だったのだが、成程こういうわけだったのか。
僕は感慨に浸ったまま、上ずった声で彼女に告げる。
「あ、あの。きっと、貴女に愛してもらえて嬉しかったんだと思います。その想いを返したいと思うくらいに」
事情の知らない彼女には意味がわからないだろうと思いつつも、僕は伝えずにはいられなかった。ウグイスはただ自分の想いを伝えたかっただけではない。人々から疎まれていた自分を受け入れ、愛してくれた持ち主に恩返しがしたかったのだと気付いてしまったから。
女の子は僕の言葉に驚いたようだった。だけどその表情は、すぐさま照れ笑いに変わる。
「そう、なんですかね。でも、確かにそうなのかも。私、今までよりもさらに、このオルゴールのことが好きになっちゃいましたから」
その一瞬、ウグイスの人形が翼を広げたのを僕は確かに見ていた。想いが通じたことを喜ぶように、ウグイスは羽ばたいてみせたのだ。
「このオルゴール、ずっと大切にします。店主さんにもお伝えしてほしいです。素敵な品をありがとうございますって」
少女は幸福に満ちた笑顔で、オルゴールを大事に抱え立ち去っていく。
僕は幸せをお裾分けしてもらったようなふわふわとした心地で、クロが雨の外出から帰ってくることを待ち遠しく思うのだった。
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